子供の頃の夏の想い出はなぜかヴニュエルの映画のシュルレアリスムな情景ばかりです。ひとりっ子は孤独な生活には慣れているので、寂しいと思ったことはほとんどなく、不思議に何かに守られているという感覚が常にありました。子供の頃は無心になって、模写に熱中していましたが、あの感覚は今も同じで、何かに没頭して、すぐ三昧になれる性格は、いつも頭を空っぽにする特技によるものかも知れません。今でも、野山や川に生き物を追っかけていたあの日、あの頃の感覚に戻れるのは、きっと過去の時間が僕の心の奥底から奥底へ流れる魂の点滴のせいだと思っています。
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰
※週刊朝日 2022年7月22日号