撮影:喜多研一
撮影:喜多研一
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 写真家・喜多研一さんの作品展「GROUND RESUME-土地の履歴書-」が8月5日から東京・新宿御苑前のアイデムフォトギャラリーシリウスで開催される。喜多さんに聞いた。

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 作品に写るのは東京23区内を「ちまちまと、野良犬が歩きまわるようにして見つけたような景色」。

 それを「ああ、これだ! みたいな感じで見つけて撮っていくのがすごく楽しい」と、喜多さんは言う。

 主な撮影エリアは東京の山の手地域。その谷間につくられた入り組んだ道や、さびやひび割れの目立つ古い建物が写っている。しかし、わざとランドマークとなる建物を写し込んでいないため、それがどこであるかはよくわからない。

「東京一極集中って、言われますけれど、実はその東京自体が『地盤沈下』している。そういう姿が垣間見えるのはドキュメンタリーっぽい、と思いますね」

 そんな、ちょっとドキッとするようなことも口にする。

撮影:喜多研一
撮影:喜多研一

■旧東京市、35区全域を撮る

 喜多さんは昔から歴史に興味があり、帝京大学で歴史学を学んだ。

 現在の東京都区域の範囲(旧東京市)が制定されたのは、いまから90年ほど前の1932(昭和7)年。

 喜多さんはそれを記念して発行された冊子、『新東京大観』(東京朝日新聞)をかばんから取り出し、見せてくれる。

 薄茶色に焼けた表紙には書名を囲むように国会議事堂や皇居、工場などが描かれ、それをめくると旧東京市の古い区割り、35区の地図が掲載されている。

 今回の作品タイトルでもある「GROUND RESUME」は「土地の履歴書」を意味する造語で、この35区全域を網羅的に歩いて撮影し、作品化するプロジェクトという。

「履歴書には、紙一枚に人生が詰まっている。そういうものを土地に転化して表したい。写真という紙一枚にこの街の歴史をどれだけ詰め込めるのか、という発想です。それに挑戦するのが楽しい」

 いちばん最初に撮影した中野区だけでもその道筋は「200キロから300キロ」にもなる。同じ道を何回も歩いたところもあるので、実際に歩いた距離はそれよりもはるかに長いという。

「撮り終えるまでに、ぼくの寿命が持つか、わからないくらいのプロジェクト。そんなわけで、撮りたいところから撮り始めたんです」

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妻は「やらない理由はない。やりなさい!」