「そのころから写真にハマっていったんです。日本とは景色がぜんぜん違って、すごい感動を覚えた。一つひとつの景色が雄大で、空気が澄んでいた。コンパクトカメラですけれど、想像どおりのいい写真が撮れるとすごく楽しかった。逆に撮れないと悔しかった。それがよかった」
翌年、帰国してしばらくすると、東京都内の写真スタジオでアシスタントの仕事を始めた。
「面接に受かるとは思わなかったですね。撮影の実務はまったく知らなかったですから。お金がなかったので写真学校に行くなんて思い浮かばなかったし、写真をすぐに覚えたいという気持ちもあった」
アシスタントを卒業して写真家として一本立ちしたのは06年ごろ。
そして12年から、この自然との共生シリーズを撮り始めた。
「引かれたのは冬山。雪が降ると山肌にグラデーションができて、すごくきれいじゃないですか。そういう景色を撮ってみたかった。そこにどんな世界があるのかな、と。最初に訪れたのは秩父、瑞牆山(みずがきやま)のふもとにある森」
■冬山の静けさと不思議な光景
高校卒業まで身近にあった故郷の山。改めて訪れてみると、そこには見たことのなかった風景があり、とても高揚感を覚えた。
「凍りついていく川、樹皮が剥がれた落ちた木の姿、動物の足跡、廃虚とか人が残していったもの、あとダムにも引かれましたね。静けさのなかで見たそういうものがすごく不思議というか、インパクトがあった。それは何なんだろうと思いながら一つひとつ撮影していった」
そうやって4年間撮りためた写真が「Symbiosis」シリーズの第1作「静けさの先にあるもの」となった。
撮影で冬の山のなかを歩いていると、ときおり猟銃の発砲音が聞こえた。
「それで、狩猟に興味が湧いてきて、どうしても撮りたくなった」
南アルプスの一角、早川町に住む猟師に頼み込み、狩りに同行させてもらった。それを写し、まとめたものが次作「けもののにおい」となった。
狩猟を撮影した体験は厳冬期に生きる動物への興味へとつながり、生命の痕跡を写しとった3作目の「風の痕跡」が出来上がった。