意識障害の原因としてもうひとつ怖いのは、低ナトリウム血症がある。
高齢になり、とくに血圧が高い人は「塩分を控えろ」と言われるが、高齢になると腎臓の機能が落ち、ナトリウムを貯留しにくくなるので、塩分を控えすぎると低ナトリウム血症を起こしてしまう。利尿剤を使っているととくに起きやすい。これは意識障害だけでなく、ひどい場合にはてんかんのような症状も出る。当然、車の運転どころではない。
さらに、若い頃と比べて肝臓の機能が落ちる分、いろいろな薬の血中濃度の半減期が長くなることで薬がなかなか抜けない状態になることもある。睡眠導入剤や精神安定剤を使っていると、それが抜けず、頭がボーっとした状態になりやすい。その他、いろいろな薬を併用していると思わぬ意識障害が起こることも知られている。
事故を起こした人、暴走をした人、逆走をした人などの服薬状況をチェックして、どの薬が運転の際に危険であるかを特定できれば、多少なりとも、飯塚被告が引き起こしたような痛ましい事故の再発防止につながるかもしれない。
少なくともすべての高齢者から免許を取り上げるより、特定の薬を飲んでいる人の運転を控えてもらうほうが、経済的なダメージや、要介護高齢者の増加を防げることだろう。
■高齢者を一律に危険視し、免許返納を迫るのは間違い
「自分は悪くない、車が悪い」といった態度を貫き、罪を認めようとしない飯塚被告の態度をみていると「罪を憎んで人を憎まず」という気になれないかもしれない。
だが、事故の再発予防や高齢者のQOL(生活の質)の維持のためには、高齢者を一律に危険視し、免許返納を迫るより、何が本当に危ないのかの分析が必須だと私は信じている。
(和田 秀樹 国際医療福祉大学大学院教授)