一方、山崎さんは『植物忌』の中から「避暑する木」「ディア・プルーデンス」「スキン・プランツ」「始祖ダチュラ」「桜源郷」の5編を選び、作中のとくに印象に残った文章から5種類のショコラをデザインした。「この文章をチョコレートにしたらどんな感じになるのかな」と想像しながらフレーバーの素材を選んでいったという。
「小説には、人間から植物が生えてくるなどリアルに想像するとぞわっとする描写がありしますが、でも不思議と気持ちが悪いとは思わない。言葉が繊細で美しく、光が当たってキラキラしている感じや透明感がありました。どうして透明感があるのかなと考えた時、その根底にはたぶん愛があるんだなと思いました」(山崎さん)
その愛はショコラの創作にも生かされている。「ディア・プルーデンス」のショコラは、ずっと部屋に籠っていたキャラクター(しりごみちゃん)が部屋から羽ばたいていく場面からとった。
「外に出ていく時もワーッと勢いよく飛び出すのではなく、しりごみちゃんらしく『小声の輪唱』のように飛んでいく。輪唱という表現が素敵ですよね。フレーバーには綿毛があるような感じのハーブと、外に出ていく喜びを表現するためにストロベリー、それとちょっとフレッシュな気持ちもあるのでレモンを使いました」
アートとショコラ。一見すると畑が違うようだが、二人の創作スタイルには重なる部分が大きい。それが「五感」と「化学反応」だ。作品を五感で受け取ってもらい、人それぞれの感覚が広がる。それらが響き合い、より大きな化学反応となって、友だち同士、家族、社会へと散種され、たくさんの会話や笑顔で世界が満たされてほしいとの思いを込める。
その思いは、「光合成しちゃう?」というイベントタイトルにも表現されている。植物が光合成するように、訪れた人々が小説やアート、ショコラを五感に取り込むと何が生まれてくるのか――。それは会場でリアルに作品と向き合って感じてみてほしい。
■プロフィール
ショコラティエ・山崎のり子
長年アパレルの世界で服作り、ブランド構築の仕事に携わった後、ショコラティエに。ノリコ・ショコラ代表。2021年のバレンタインでは伊勢丹新宿本店「スイーツコレクション」や「婦人画報のお取り寄せ」でショコラを販売した(通常は通販のみ)
アーティスト・瀬川祐美子
2014年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業、16年同大学大学院美術研究科修士課程修了。19年からは「平成31年度ポーラ美術振興財団 若手芸術家の在外研修助成」でドイツのミュンスターアートアカデミーに1年間留学する。展覧会実績も多数