『家にいるのに家に帰りたい (&books)』クォン・ラビン,チョンオ,桑畑 優香 辰巳出版
『家にいるのに家に帰りたい (&books)』クォン・ラビン,チョンオ,桑畑 優香 辰巳出版
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 多かれ少なかれ、誰もが抱えている孤独や不安、満たされない気持ち。あるいは過去のつらい記憶や忘れられない思い出。私たちは大人だから、いつもはそっとフタをして、平気な顔で仕事をしたりしているけれど、ときにはそうした感情とじっくり向き合い、自分を慈しんであげてみてはいかがでしょうか。

 その助けとなってくれるのが、クォン・ラビンさんが記した『家にいるのに家に帰りたい』かもしれません。

 本書は、エッセイのような、ポエムのような一冊。読者が「まるでこっそりわたしの心をのぞき込み、わたしのためだけに書いてくれたみたい」(本書より)と言うように、クォンさんが紡ぎ出す言葉の数々は、多くの人々の共感を呼びながらも、読む人一人ひとりのそばに寄り添い、そっと抱きしめてくれるような温かさがあります。

 たとえば、タイトルにもなっている「家にいるのに家に帰りたい」のパートでは、以下のように記されています。

「いまいる場所になじむことができず、不安やとまどいを感じると、心やすまる居心地のいい家に帰りたくなる。」

「一番親しい人がいる場所が、本当のわたしの『家』。だから、『家にいるのに家に帰りたい』と思ってしまう。」

 心の中で深くうなずいた方もいるのでは? 他にも、国や性別、年代問わず、私たちの心を優しく包み込んでくれるかのような言葉がいっぱいです。

「枝を切って木を整える必要があるように、人生にも人間関係を自ら切って、整えなくてはならない日が訪れる。それは間違ったことじゃない。枯れたり、腐ったりした関係を、自分のために刈り込むだけ。」(本書より)

 一節一節を読みながら、枯れた枝に水が染みわたっていくように、かさついていた心が潤っていくのを感じることでしょう。そして、人生とは、愛とは、家族や友だちとは、と少し考えて、自分をもっと大切にしながら生きようと思えるでしょう。

 クォンさんは1994年生まれ。9歳のときに両親の離婚を経験し、それをきっかけに世の中で「あたりまえ」と思われている多くのことに疑問を持つようになったといいます。そうして、自分と同じような思いを抱えている人たちに向けて刊行したのがデビュー作となる本書だそうです。

 電子書籍版もありますが、個人的には単行本で購入することをおすすめしたいです。素朴なタッチのイラストも素敵なので、ぜひイラストと文章の見開きで目にしてほしいのと、いつでもすぐにページを開けるように「本」という存在でそばに置いてほしいから。本書はきっと皆さんにとって、手元に置いて何度でも読み返したくなる一冊になるのではないでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]