投資ビギナーが買うにはぴったりの、安心経営で配当も高め、長く持つほどお宝になる株を知りたい。4月13日発売の「AERA Money 2021春号」では、連載「金カネノナル株」の第1回でキリンホールディングス(HD)を取り上げている。
* * *
1885(明治18)年、横浜・山手の在留外国人が設立したジャパン・ブルワリー・カンパニーが起源のキリンホールディングス。
1907年には三菱財閥の岩崎家などが外国人から経営を引き継ぎ、麒麟麦酒(キリンビール)を創立。聖獣「麒麟」のロゴマークがついたビールは100年以上も飲み継がれている。
キリンといえば、アサヒと長年、ビール販売量の熾烈(しれつ)なシェア争いをしてきた。年間ビール類推定シェアを見ると、2009年に9年ぶりでキリンがトップに。
翌2010年、アサヒが抜き返した。そして昨年、11年ぶりにキリンが首位奪還。昨年11月初旬からの2カ月で株価も1.3倍まで上昇している。急上昇の影に何があったのか。
キリンHDのIR室長、松尾英史さんにご登場いただき、経済ジャーナリストの田嶋智太郎さんが都合のいいことも悪いことも聞いた。
田嶋:コロナ禍による巣ごもり消費の追い風が吹きましたね。特に何が売れましたか?
松尾:まず「本麒麟」です。当社にとっては「のどごし<生>」以来の大ヒットになり、2020年は前年比約30%の売り上げ増になりました。そして、5年の開発期間をかけて昨年10月に発売した「一番搾り糖質0」。ビールで国内初となる糖質ゼロ1を実現しています。コロナ禍で健康への配慮が高まる中、大ヒットとなりました。
編集部:健康というキーワードでは、「免疫」という言葉がパッケージに躍る「プラズマ乳酸菌iMUSE(イミューズ)」も株価爆騰に貢献しているようですね。
キリン傘下の小岩井乳業によるiMUSEヨーグルトの売り場がスーパーに特設され、数十個単位で買う人を見かけます。
ヨーグルトの箱買いといえば明治の「R-1」ヨーグルトの独断場というイメージがありましたが、R-1にも表示されていない「免疫」という言葉はコロナ禍で目を引きます。
松尾:健康分野に関しては、1982年から医薬事業に進出しています。長年、医薬事業の分野で培った数々の知見を生かして、免疫に関する初の機能性食品を登場させることができました。
編集部:「本麒麟」「一番搾り糖質0」「iMUSE」——。売れ筋商品を次々と世に送り出すも、株価は年初から調整気味のようです。一方でアサヒグループホールディングスの株価は上昇傾向にあります。
田嶋:いずれワクチン効果で「外飲み」が復活し、多くの人が飲食店でアサヒスーパードライを飲むだろうと期待されているからではないでしょうか。実際、業務用はアサヒが強く「家飲み」はキリンが強いというのは事実です。
ただ、キリンの磯崎功典(よしのり)社長が会見で「もうビールで規模を追うことはない」「缶チューハイもアルコール度数の高いものを積極的に打ち出していくつもりはない」と語っています。確かにアルコール度数9%のチューハイは酔いが回りやすくて人気です。でも飲みすぎると体にさわる……。
アルコールを売る企業として売上高だけを第一目標としてはいけない、という部分が今後は新たな評価基準になっていい。加えて、キリンのビール以外の医薬事業での成長性に市場がもっと注目すれば、株価は見直されると思います。
松尾:はい、酒類メーカーとしての責任を果たすための「適正飲酒啓発プログラム」の実施や、糖質オフ/ゼロ、ノンアルコール商品の開発にも力を入れています。ヘルスケア事業も今後、さらなる成長を見込んでいます。
田嶋:キリンホールディングスは取締役、監査役の女性比率が高いですね。現状24%、2030年には30%まで引き上げる方針としている点は高評価です。さらに社外取締役を増やす方針を打ち出すなど、管理体制の強化にも余念がありません。
最近の株式市場では、環境面、社会貢献面、管理面で優れた企業に投資するESG投資の考え方が普及してきています。その意味で、キリンさんはまだ評価不足であると言え、株価の伸びしろは十分あると思われます。
松尾:最近では飲食店向けに1台で4種類のクラフトビールを提供できる「Tap Marche(タップマルシェ)」の展開を加速させたほか、同様に3リットルのペットボトルを装着できる小規模飲食店向け新ビールサーバー「TAPPY(タッピー)」を4月から全国展開します。