写真家・山崎弘義さんの作品展「CROSSROAD」が3月4日から東京・新宿のオリンパスギャラリー東京で開催される。山崎さんに聞いた。
展示作品は1990年から96年にかけて東京の繁華街を中心に撮影したスナップショット。
山崎さんは作品を制作するにあたり、過去のベタ焼き350本ぶんをすべて見直した。
「撮影当時とは写真の見方、選び方が変わっていますね。昔はあまり面白くないと思っていなかったのが、逆にすごく面白く見えた」
ストロボをガツンと焚いた感じの硬派なストリートスナップからは、やはり、時代を感じる。雑踏を歩く人々の髪型や服装の違いはもちろんのこと、上野や浅草の写真からは、撮影したのはすでに平成なのだが、猥雑な「昭和の空気」が伝わってくる。
よく訪ねたのは上野、浅草、池袋、原宿、新宿、渋谷。日差しが注ぐ駅前の駐車場で男たちが寝転んでいる。説明されるまで、それが上野駅で写したものとは気づかなかった。いまでは見ることのない光景。新宿駅南口もずいぶん違う。取り壊される前の石造りの壁と曲がりくねった階段。西口、思い出横丁のすぐ横では都営地下鉄大江戸線の工事が行われている。なつかしさがこみ上げてくる。
90年代、山崎さんはこのシリーズを数回展示し、最近では2019年に写真展を開いた。30年前と最近では、作品を見る人の反応がまるで違うという。
「昔は『どうやって撮った』『トラブルにならなかったか』とか、そういうことしか聞かれなかったんですけれど、いまではプリントの隅々までよく見てくれます。撮った自分が言うのもおかしいんですけれど、写真の持つ記録性を体感した、というところはありますね」
山内道雄さんの背中を追って、ストリートスナップを撮影
これまで私は何人もの写真家のストリートスナップの撮影現場に密着してきた。そのたびに、彼らの強い精神力に圧倒された。
山崎さんも「ストリートスナップは、『作品をつくらないと』という強迫観念がないと、続かないですよ」と言う。
そんな山崎さんがストリートスナップに強く引かれるようになったのは20代後半。新宿駅周辺でとんでもないスナップ撮影の達人を目にし、度肝を抜かれたのがきっかけだった。のちに土門拳賞を受賞する写真家・山内道雄さんである。