もう一つ気になったのは、画面の中に被写体がうまく収まりすぎてしまうことだった。
「ウエストレベルファインダー」に映る被写体を上から覗き込むと、相手に対する「威圧感がとても少ない」半面、「構図をちゃんと決めて撮っていると、つまんなくなっちゃうんですよ」。
撮ってやるぞ、という意識とは違うところで、いろいろなものが写り込む
そこで試しにストロボを使い、発光によって一瞬の人の表情を写し止めるようになると、「面白い写真が増えてきた。安定しない、アンバランスさみたいなものが面白く見えるというか」。
ストロボはサンパックG4500DXというかなり大きなもので、総重量はかるく2キロを超える。
普通、スナップショットではライカのような軽快な機種を使うことが多い。これほど大きなカメラでは撮影どころか、持ち歩くだけでも大変そうだ。
「いまじゃ、とても無理(笑)。でも、私にとって、カメラの取り扱いは、ちょっと面倒くさいほうが撮りやすかった。操作に集中するので、相手に対する緊張感がやわらぐところがあるんです」
ファインダーはかなり暗いので「ピント合わせはほとんど目測。天気がいい日だとシャッター速度は1/250秒。絞りはf16かf16半くらい。それでストロボをTTLオートに設定すると、ほぼ、間違いなく撮れました」
撮影本数は、調子がいいと1日10本、悪いと5本くらいだった。
「全然撮れなくて、今日はダメだな、といったときに、とりあえず、シャッターを切るじゃないですか。その写真が面白く写っていたりすることもあるんです」
撮影当時はそのことにあまり気づかなかった。しかし今回、ベタ焼きを見直すと、そのことをはっきりと認識した。
「撮ってやるぞ、という意識とはちょっと違うところで、いろいろなものが写り込んだほうが、私のストリートスナップとしては成功しているのかな、と思いますね」
写真展に合わせて発売した写真集のあとがきには、こう書かれている。
<写すという能動的な行為よりも、写り込んでくる事物にこそ写真の本質があるように思えてならない>
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】山崎弘義写真展「CROSSROAD」
オリンパスギャラリー東京 3月4日~3月8日