本好きには、暗がりで本を読む人が多いように思う。自分の領域を守るように、他者の領域を侵さないように。著者もおそらくその一人であろう。暗がりのなかで、読み終えた本についてぽつりぽつりと短い言葉で過不足なく語る。その言葉はとても慎重で、だからこそ信用できる。

 本書は、福岡の書店で働く著者による初の書評集だ。児童書から小説、評論まで約60冊がとりあげられ、そのほとんどは2015~18年に「本の雑誌」に掲載された。

「本一冊薦めるにも、言葉を選ぶ困難があり、批判も受ける」と著者は言う。それでも、この本を必要としている人にどうか届いてほしい。その思いで、書店の棚をつくり、書評を書き続けてきたのだろう。この人が薦める本ならば読んでみたい。そして本書が、必要としているすべての人に届くことを切に願う。
(後藤明日香)

週刊朝日  2021年2月19日号