世界の8千メートル峰すべてに登頂した登山家・竹内洋岳(ひろたか)さんと、20年にわたり北極行を続ける冒険家・荻田泰永(おぎた・やすなが)さん。異なる冒険スタイルの二人が語り合った、AERA 2021年2月15日号の記事を紹介する。
【登山と極地、いわば「垂直」と「水平」を極めた二人の写真の数々はこちら】
* * *
──登山と極地。いわば「垂直」と「水平」。それぞれの冒険の違いとは。
竹内:極地と山って、よく混同されますよね。同じようなウェア着てるし、雪だし。
荻田:「北極って酸素薄いんですか?」とよく聞かれますよ。でも北極は足元が海だから、歩いていても「航海」のような要素が強い。そして一番の違いは、山は突然死ぬってことだと思う。30秒前まで元気だった人が、雪崩とか滑落とか、あっという間に死んでしまうことがありますよね。竹内さんも雪崩で大けがをされたことがあると。
竹内:2007年、パキスタンでのことです。地面が動いたと思ったら、あっという間に300メートル転落した。背骨が折れて肺が潰れながらなんとか助けられたけれど、同行者が2人亡くなりました。重篤な高山病で突然意識を失ったこともあるし、小一時間前に頂上で抱き合った仲間が、滑落して死んでしまったこともあります。
荻田:極地だとそういうことはあまりなくて、死ぬとしたら、ジワジワと死んでいきます。
■目覚めたら「どこ?」
竹内:極地の冒険行を読むと、真綿で首を絞められるような恐怖を感じます。山でも悪天候に閉じ込められることはありますが、目に見える恐怖です。一方、極地では自分でも気づかないうちに追い込まれて、ゆっくり絞め殺されていく。いつから危険だったのか、今危険なのかわかりにくい。山とは恐怖やリスクのあり方が違うと思います。
荻田:確かに、極地冒険ではリスクゼロの安全地帯もなければ危険度100の場所もありません。ずっと70くらいのリスクのなかに身を置いています。
竹内:山では今はものすごく危険な場所でも、一歩進めば安全地帯ということがある。振れ幅は大きくても、安全地帯があることに助けられます。「流される恐怖」も印象的でした。