もちろん、一般市民の考えが直接反映され得ることの問題点については、議論の蓄積がある。主な懸念点は代表者の能力にある。くじ引きで選ばれた人たちは必ずしも政治に関心があるわけではない。政治的に有能ではない議員が数多く選出される可能性もある。また、政治の素人であるが故に官僚や専門家に依存した結果、官僚が政治を支配しかねない。ロトクラシーは多くの長所を秘めていると同時に、このような欠点も抱えているのだ。

 このようなロトクラシーの利点と欠点を踏まえて山口さんは、無作為抽出と選挙の混合システムの導入を提唱している。具体的には、衆議院は選挙のままで参議院をくじ引きにするというものだ。衆議院が法案を作成し、それを参議院に提出。参議院は、法案に対する衆議院内の賛成意見と反対意見、専門家の意見などを聞いた上で投票を行い、法案が可決されるか否かが決まるという仕組みだ。選挙とくじ引きの「いいとこ取り」ができる可能性を秘めた仕組みだと言える。

■現状に疑いの目を

 果たしてロトクラシーが我々の社会に導入される日は来るのか。山口さんは「今すぐにとはいかないだろうが、海外や地方などで地道に実証研究を積み重ね、うまく機能すると認識されるようになれば可能性があるのでは」と語る。実際に海外では地方議会を中心に、無作為抽出された市民から成る助言機関が設置される動きが出ている。

 国政レベルにおいても、マクロン仏大統領は昨年10月、環境問題に関して無作為抽出で選ばれた市民による会議を招集した。同国の大統領選でもさまざまな候補者がくじ引きによる助言機関の設置を争点にするなど、特に欧州では徐々に浸透しつつある状況だ。今後、日本にもその流れが波及してくるかもしれない。

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