我々が有権者として政治を見る上で重要なこととはなんだろう。山口さんは、「現状を自明視しないこと」だと答える。現状のシステムは必ずしも正しいわけではない。私たちが当たり前だと思っている代表制民主主義も始まってから約200年しか経っていない。米独立革命時に選挙制が導入されたのも抽選制に問題があると考えられたからではなく、政治的なエリートたちが、自分たちが権力を握るシステムとして選挙制を好んだからという側面がある。多くの一般民衆ではなく、元来の政治的エリートが統治したかったからこそ選挙制を導入したのだ。「米国憲法の父」と称されるマディソンなどの政治的リーダーも、自分たちの統治システムは民主主義ではなく共和制だと主張していた。民衆の意見をエリートたちが洗練させて良い決定を行う。これが共和制であり、民主主義とは対立するという立場をとっていた。それが19世紀後半から20世紀にかけていつの間にか代表制民主主義が民主主義だという認識が広まった。

 このように、時間の推移でそうなってしまっただけで、現存のシステム自体にはその必然性がないことがある。だからこそ現状を自明視するべきではないと山口さんは語る。また、自分の立場は偏っているということも認識すべきだと言う。「自分は中道的な見方をしている、正しい見方をしている」と私たちは思いがちだが、実際はそうでないことも多い。従って「現状も自分の立場も自明視せず、常に懐疑の精神を持っていることが有権者としては重要だと思う」。

山口晃人(やまぐち・あきと)
東京大学大学院総合文化研究科博士2年。2019年東大大学院総合文化研究科修士課程修了。修士(学術)。現在、日本学術振興会特別研究員。

(文/弓矢基貴)