写真家・井津建郎さんの作品展「撫州(※編集部注:実際は「撫」の字が簡体字)・忘れられた大地」が11月18日から東京・丸の内の富士フイルム Imaging Plaza東京で開催される。井津さんに聞いた。
井津さんが撮影に訪れた中国江西省の撫州周辺は、明・清時代に建てられた伝統的な様式の家が数多く残されている地域だ。大都市や沿岸部ほど大規模な開発が進まず、ある意味、時代の波に取り残され、取り壊されることもなく、風雨にさらされ、植物に覆われていく建物と、いまだにそこに住み続ける人々の姿をカメラに収めている。
ニューヨークを拠点に活動する井津さんは、これまで古代エジプトの遺跡やイギリスのストーンヘンジ、カンボジアのアンコールワットなど、人類の痕跡を超大型のフィルムカメラで撮影してきた。
「ぼくは、ものが滅びていく姿、そこに美を見出して四十数年間、世界中を回って撮り続けてきたんですが、この10年くらいは、人間の生活にも非常に興味を持ち始めました。目の前にある町を鳥瞰的に見て、それが移り変わり、滅びていくさまにフォーカスしていく」
そんな視点で撫州を撮影していると、それが「近代の遺跡」であることを実感するという。
中国の大富豪と出合い、故郷の村を訪ねる
撮影のきっかけは2016年11月、上海で行われた友人との食事会で、超高級ホテルリゾート「アマンヤンユン」(2018年開業)のオーナー、マー・ダードン氏を紹介されたことだった。
マー氏は翌年5月、井津さんをホテルの建設現場を案内した。広大な敷地には樹齢数百年の「とにかく非常に大きなクスノキ」が1万本も植えられていた。
「そのクスノキが生えていた場所が今回、撮影した地域に含まれるんです。そこは彼の故郷の村があったところなんですけれど、ダムができて水没してしまった。彼は非常に樹木を愛していて、水没する前にクスノキを全部移植するという壮大な計画を立てて、10年以上かけて実行したんです」
リゾートの敷地にはクスノキとともに移築された明朝、清朝時代の伝統家屋が建っていた。
「その建築様式がほんとうにすばらしくて。巨大なファサードを持つ古い中国の建物。内部には大きな梁や柱があって、現代ではなかなかできないような立派な彫り物がしてありました」
アメリカに帰国すると井津さんのもとに写真が送られてきた。それは撫州周辺で写されたものだった。美しいクスノキの巨樹の林やホテルの建設現場で目にしたような昔の建物や古い村が写っていた。あるものは崩れそうになりながら、荘厳な美しさを保っていた。
「それ見たら非常に興味が湧いてきましてね。ぜひ、行ってみたいと思ったんです」
計6回におよぶ撮影を開始したのは2017年12月。上海から撫州までは新幹線で4時間ほど。リゾートの所有会社が手配してくれた現地スタッフたちがリサーチから通訳、車の運転、宿の手配まで、すべてをサポートしてくれた。
「ぼくの写真をネットで調べて非常に興味を持ってくれて、とても熱心に手伝ってくれました。彼らがきちんと説明してくれたおかげで、家の中なんかも撮影することができました」