テロリズムが起こると、宗教や貧困、移民であることが原因とされることが多い。しかし、同じ状況下でも行為に手を染めない者もいる。本書は、表面的な分析から一歩踏み込み、ジャーナリズムとアカデミズム双方の視点から「過激化のメカニズム」に迫った大変ユニークな本だ。

 著者は、海外特派員として、過激化した人々が衝突する現場に幾度も立ち会い、ISの元戦闘員への取材経験などを重ねてきた気鋭のジャーナリストだ。さらに、2017年夏から2年間、イスラエルの大学院で過激化やテロリズムについての心理学的研究を行っている。その経験と研究から導き出された理論には、一読の価値がある。

 相模原殺傷事件などの日本で発生したローンウルフ型犯罪や、コロナ禍の自粛警察についても著者の理論で読み解くことができる。
(吉村博光)

週刊朝日  2020年9月25日号