写真家・中西敏貴さんの作品展「Kamuy」が9月19日から東京・品川のキヤノンギャラリー Sで開催される。中西さんに話を聞いた。
今回の展示作について、「目に見えないものを写しとりたかった」という中西さんの言葉を聞いたとき、アラスカの大地にすっくと立つ星野道夫(※)の姿が脳裏に浮かんだ。
目に見えないものは写らない。しかし星野は、目の前にあって見えるものだけではなく、さらに自然の奥深くまで踏み込んだところにある、もう一つの真実を写真でどう表現するかを真剣に考えていた。「大切なことは、目に見えないからね」。いつも、そう言っていたという。
興味深いのは星野の代表作『Alaska 風のような物語』に先住民族がたびたび登場することだ。例えば、当時112歳だったアサバスカンインディアン、ウォルター・ノースウェイの表情を間近から撮影し、こう書いている。
〈ウォルターは村の守り神のような存在だった。全生涯を森の狩猟生活に生きた。その手を握った時、しわだらけの皮膚の感覚が僕の手に残った〉(週刊朝日1989年3月31日号)
一方、中西さんの作品はタイトルこそアイヌ語の「Kamuy(カムイ)」だが、写真には北海道の先住民族アイヌの姿はまったく現れない。写したかったのは彼らの暮らしや祭りではなく、自然に対する意識だという。その象徴がカムイなのだという。
移住したころは「この土地のほんとうのよさが見えていなかった」
中西さんが北海道美瑛町に撮影の拠点を構えたのは2012年。18年間の公務員生活にピリオドを打ってのプロデビューだった。そのとき、妻はこう言った。
「2年の間に家族4人が食べられる稼ぎになったら私たちもついて行く」
妻と2人の子どもを故郷の大阪に残しての移住。文字どおり、背水の陣だった。
「ずっとここに通って撮ってきて、もう、ここ以外の場所で作品をつくっていくことは考えられなかった」と、中西さんは当時を振り返る。