キヤノンEOS R・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM・ISO100・絞りf22・1/10
キヤノンEOS R・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM・ISO100・絞りf22・1/10

 あれから8年。大きく変わったのは自然を見る視点だと言う。

「大阪から通って撮っていたころは、完全に自然を外から見ている感覚だった。でも、いまはその中に入って、内側から見ている。自分も自然の一部だという感覚が強くなってきた」

 特にここ1、2年は、それをどう表現するか、自問してきた。

「自然はぼくらが生まれるずっと前からただそこにある。語りはしない。気配だけが漂っている。それを拾い集めてビジュアル化するのがぼくら写真家の仕事だな、と」

 移住したころは「既存の風景写真のイメージに引っ張られすぎていた。この土地のほんとうのよさが見えていなかった」と言う。

 最近は「自然の中で目に見えないけれど、ビシビシと感じる気配って何だろうと考えるようなった。例えばクマの気配だったり、風の気配。ひょっとしたら、それはアイヌの人たちがカムイと呼んでいたものに通じるんじゃないか、と思い始めた」。

 アイヌにとってのカムイとは、さまざまな役割を果たすために、自然や物に姿を変えて人間の世界に存在するものという。例えば、アイヌ語でヒグマのことを「キムン・カムイ」、ヤナギは「シュシュ・カムイ」、風は「レラ・カムイ」という。

 人間とカムイは相互に支え合う存在であり、この2つが合わさって自然をつくり出している。なので、人間は自然の一部に過ぎない。中西さんはアイヌの人々が感じてきた自然というものが「カムイ」という言葉に集約されているように思えた。

キヤノンEOS R・RF28-70mm F2 L USM・ISO400・絞り開放・1/1250
キヤノンEOS R・RF28-70mm F2 L USM・ISO400・絞り開放・1/1250

自然の猛威に逆らわず、それを受け入れ、生きてきた人々

 昨年秋、私が中西さんのフィールドを訪ねた際、十勝岳に案内された。ハイマツの生い茂る登山口から30分ほど歩くと、硫黄の混じった岩がむき出しになり、目の前を噴煙が流れた。爆発的な噴火によって山の斜面が大きくえぐられた安政火口だ。

「なぜ、ここに来たかというと、全部ここから大地が始まっているから。この大地に暮らす人の原点なんです」

 流れ出した溶岩は冷えて固まり、そこに降った雨や雪はやがて地表に流れ出て飲み水となり、野菜を育てる。それが人々の暮らしを支えてきた。

「全部つながっているんです。ここに移り住んだ自分とも。いま、ぼくたちがここで目にしているのは人と自然との共存の風景なんです」

 2年ほど前から美瑛や富良野の成り立ちを撮り進めていくうちに、次第にこの土地やそこで暮らす人々との関わり合いに目が向くようになった。

「火山の噴火や土石流。大雪や猛吹雪。それを前にして、じたばたしても仕方ないな、という自然観。ここに住んでいると、人間の力が及ばない、やっぱり、自然ってすごいな、ということを身近に体験するんです」

 自然の猛威に逆らわず、それを受け入れ、風になびくヤナギのように柔軟にたくましく生きてきた人々。その象徴がこの土地で悠久の時を刻んできたアイヌだった。

「アイヌにとっての3大神は火、水、森の神。これは、ぼくたち自然をモチーフにしている写真家にとっても基本なんです。火は火山、水は川や滝。それらが森につながっている。それで、この3つを軸に今回の写真展を組もうと決めたんです」

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