長引くコロナ禍でエンターテインメントの「オンライン化」が進むなか、あえて「プリント」にこだわってリアルな写真展の開催に注力する写真家もいる。資生堂のカメラマンから独立後、様々な試みで作品を提供する佐藤倫子さんもその一人だ。いまなぜ「紙」なのか。話を聞いた。
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写真展までの道のりは「瓢箪から駒」「不幸中の幸い」の連続だった。佐藤さんが撮影したのは今年1月、ハワイのオアフ島。当初は今年2月の「CP+2020」(カメラと写真の国内最大のイベント)で作品を紹介するための撮影計画だった。だが、新型コロナウイルスの蔓延によってCP+2020は中止に。しかも、渡航直前にちょっとしたミスをおかしてしまったという。
「航空券を4泊6日のつもりが7泊分で予約してしまったんです。キャンセルしようにもお金は戻ってこない。もともとCP+2020のためだけに作品を撮ろうと思っていたので、オアフ島で7泊もしてどうするんだと(笑)。結局、コーディネーターさんにお願いして写真展が開けるぐらいの撮影をしようと切り替えました」
CP+2020では例年、数多くの写真家がカメラメーカーのブースのステージで、巨大スクリーンを通じて写真画像を矢継ぎ早に紹介する。一方、写真展はギャラリーでプリント作品をじっくり味わうもの。個展となれば作品のコンセプトがより重要になり、同じ写真表現でもまるで別物になる。
そんな矢先、佐藤さんは高画質インクジェット用紙を販売する「ピクトリコ(PICTORICO)」の新商品「シャイニーブルー」「シャイニーゴールド」と出会う。「ピッカピカのラメラメで私の発色に合う」と感じたという。その流れでピクトリコとの共同企画として今回の写真展が決まる。
「コロナ禍で作品をインターネット配信で見せる形が定着してきましたが、やはり写真はプリントで見せるべきだというのが私のベースにあるんです。単にプリントするだけでなく、紙にも徹底的にこだわって、印刷の色の出具合や光、質感などをしっかり見せたい。プリントが仕上がってこそ写真はようやく完成すると思っています。WEB上で見せるのはその後の作業です。時代も時代なので画像として見せることで完結する人も多いですが、私にはできないんですよね」