GPSは持って行かない。位置の確認は地図とコンパスのみ
ジャコウウシの写真は「道路から4、5日、奥まで行って出合った群れ」だと言う。
一回の撮影期間は2週間前後(それ以上だとカメラのバッテリーか食料がなくなってしまう)。背負う荷物は撮影機材を含めて40、50キロほど。できるだけ荷物の重量を減らすためGPSは持って行かない(電池の重さがばかにならないのだ)。位置の確認は地図とコンパス(方位磁石)が頼りとなる。
「動物と出合うのは難しいですね。何にも出合わない日もあります」
どう考えても撮影効率は悪そうだ。だからこそ、事前の情報収集には時間と手間をかけるという。
「彼らが自然に生きるフィールドをどうにかして撮りたいと思っていますから、ずーっと地図とにらめっこして、どこから入れるか、常に考えています。ジャコウウシの場合は現地の街でできるだけ聞き込みをして。郊外で出合う車は1時間に1台くらいなんですが、ドライバーにも『どこかで見た?』とたずねて、地形と目撃情報を照らし合わせる。そうすると、入る場所が見えてくるんです」
海岸を数十マイル歩きながらヒグマを撮る
山の稜線で出合ったカリブーの写真もひと味違う。背後の山々は緑が少なく、褐色の山肌は中央アジアを思わせる。撮影の様子を聞くと、山岳ゲリラのようだ。
「基本的に相手よりこちらが先に見つけたいんです。『この角度で撮れば絵になるな』とか、先回りして待つことができますから。だからルート選択は視界、つまり情報がいちばん得られるところを選ぶんです。谷の深いところはなるべく歩かない。得られる情報が少ないし、ばったり出合っても対処しづらいですから」
テントは稜線などに設営し、残雪があれば、それを溶かして飲み水にする。同じ場所にとどまるのは2、3泊まで。点々と移動したほうが被写体と遭遇する確率が増す。違った背景で撮れる利点もある。
ページをめくる。日没後、夕焼け空を背景に干潟のような海辺を歩くグリズリー(ヒグマの亜種)の親子の姿も新鮮だ。
「ヒグマの海辺の撮影ポイントはおおむね決まっているんですが、それでは同じような写真になってしまうので、海岸を数十マイル歩きながら撮ります。そこがほかの写真家にはできないことだと思っていますから」