早川:安楽死を推奨する映画だと思って見に来られる方もいるかもしれません。ただ、そういう方が映画を見て「生死とは、そんな単純なことではないのではないか」と思ってもらえたらうれしいです。「この人はきっと生きているのが大変だろうから死んだ方がマシだろう」と、当事者じゃなく他の人が想像して「じゃあ死ぬ権利を差し上げましょう」ということの残酷さ、無神経さ。そこへの想像力が欠けているのでは、というメッセージを込めたつもりです。

上野:早川さんの思いは私に強く伝わりました。その上で、引っかかった点もありました。「プラン75」の利用を考える高齢者が二人とも、家族のいない「おひとりさま」の設定。「おひとりさまなんだから未練なく死ねるよね」というメッセージに受け取られる可能性もあるのではと感じました。お年寄りは「家族に迷惑をかけたくない」と言います。せめてどちらか「家族持ち」の設定にすれば、家族関係を含めた日本の高齢者の現状がもっと複雑に、奥行きをもって描けたのではという気もします。

選択肢出す社会に

早川:そうですね……、家族や子どもがいたり、最初の脚本ではそういう登場人物もいたんです。ただ、家族との葛藤などヒューマンドラマを描きたいと思ったわけではないので、多くのことを詰め込んでメッセージがぶれるよりは、どんどんそぎ落としていく方を選びました。

上野:非常に考えさせられたのは、ラストシーンです。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、「プラン75」に身をゆだねようとしたミチは、最終的にある決断をしますね。早川さんは最初に「希望を感じられるエンディングにしたいと思った」とおっしゃいましたが、見る側があのエンディングからどのように肯定的なメッセージを受け取ることができるのか。少し不安に感じました。

早川:私としては見た方が「これじゃいけない。こんな社会にならないように変えていきたい」と思ってもらえたら一番うれしい。「死ぬ」というオプションのみを差し出す社会ではなく、「こういう生き方、こういう助け方がありますよ」と選択肢を出す社会になってほしい。そんな気持ちで作りました。

上野:お話をうかがって、やはり「心をかき乱される映画」であることがよくわかりました。この映画を見て心をかき乱された方たちが、その後、何をどう考えるか。それがポジティブなかき乱しになるかネガティブなかき乱しになるかは未知数です。もしかしたらとても「罪作りな映画」かもしれませんね。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2022年7月11日号

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