
公開中の映画「PLAN 75」で、カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)の特別表彰を受けた早川千絵さんと社会学者の上野千鶴子さんが、生と死について語り合った。AERA 2022年7月11日号の記事を紹介する。
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――舞台は、少子高齢化が進んだ近未来の日本。満75歳から生死の選択権を与える制度「プラン75」が施行される。75歳以上の人が申請すると、国の支援の下で安らかな最期を迎えられるというものだ。映画は78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)を軸に、制度に向き合う人々の姿を描く。
上野千鶴子(以下、上野):映画として本当によくできていると思いました。脚本は緻密、室内の逆光シーンでのカメラワークも、役者の演技もいい。何より主人公のミチを演じた倍賞さんの演技が圧倒的。固唾をのむほど素晴らしかった。
「いや~な」の真意は
早川千絵(以下、早川):上野さんには今回、「いや~な映画だ。だが目を離せない作品だ」と推薦コメントも寄せていただきました。「いや~な映画」の真意をもう少しお聞きしたいと思っていたんです。
上野:私はいま、後期高齢者直前の年齢です。この映画について、周囲の同世代の方たちに聞くと、「見たい」「見たくない」の間で気持ちが引き裂かれるのだそうです。でも、見に行かないわけにはいかないと。高齢者の気持ちを「波立たせずにはおかない、いや~な映画」という意味で申しました。近い未来の日本に「75歳で死を選べる」社会が来るというリアリティーを示されたということは、高齢者にとって嫌なメッセージになる可能性はありますよね。
早川:そこは不安でしたし、考えました。私は希望を感じられるエンディングにしよう、と思って作ったのですが、見る方の受け止め方はコントロールできないですし、「だから作らない」という選択肢はなかったです。嫌なメッセージになってほしくないからこそこの映画を、という思いでした。
上野:この映画を作られたきっかけは何ですか。
早川:この十数年間で、生活保護受給者へのバッシングなど、日本の社会で立場の弱い方たちに対する風当たりが強くなっていると感じています。2016年には相模原市の障害者施設で殺傷事件が起き「社会の役に立たない人間は、生きている価値がない」という考えに賛同する声も出てきた。この方向に社会が進めば「プラン75」のような施策が生まれてもおかしくない。そんな危機感がありました。皆、いつかは必ず年を取る。高齢者を対象にすれば、見る方が自分事としてとらえてくれるのではとの思いもありました。