「PLAN 75」/脚本・監督:早川千絵/出演:倍賞千恵子、磯村勇斗、たかお鷹、河合優実ほか/2022年/日本・フランス・フィリピン・カタール/112分 (c)2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

あえて75歳に設定

上野:日本はこの30年ほどかけて、ネオリベ(新自由主義)改革で「自己決定と自己責任の社会」を生み出してきました。老いも若きも「人に迷惑をかけたくない」と考える社会を作ってきたという体感は、私にもまったく共通しています。ただ、なぜ「75歳」にしたのかなと。現実の75歳は、まだ要介護度も高くないし、みんな元気ですよ(笑)。設定が妥当と思うかどうかは、世代によってその年齢への想像力が違う気もします。

早川:私も75歳が「もう死んでいい」と自分で思う年齢だとは全く思っていないんです。そうやって当事者の心情を考慮せず「75歳からは後期高齢者」と線引きしてしまう国の無神経さにとても抵抗を感じるし、もし国がこういう制度を作るならきっと75歳で区切るだろうと思い、あえて設定しました。

上野:面白かったのは、登場人物が全員、善人ですよね。「地獄への道は、善意で敷き詰められている」と言うけれども、その感じはよく出ていました。

早川:無自覚にあのような国のシステムに巻き込まれ、仕事として深く考えずにこなしている人たちの姿を描きたくて。ニコニコしながらも、とても非情なことをやっている。そんな人々を登場させたかったんです。

上野:この「プラン75」というのは、安楽死の権利ですよね。私は安楽死には非常に深い疑問を持っていますが、いつも不思議に思うのは、なぜ「死への権利」しかないのか。なぜ「生の権利」がもう一つの選択肢として提示されないのかということです。どう思われますか。

早川:その通りだと思います。この映画は安楽死の是非を問うつもりで作ったのではありません。ただ私も、安楽死の法制化に向けての声が強くなってきていることには危機感があります。強制的に人に死を迫るわけではないにせよ、「自分が選んでいるようで、選ばされてしまう」人が出てくるのではないかと。

「生の権利」示されず

上野:「生の権利」は示されないまま、安楽死をある種の「感動ポルノ」的に描いたNHKの「彼女は安楽死を選んだ」という番組がありました。嫌なドキュメンタリーでしたが、早川さんの映画もそれとスレスレのものになるかもしれない、という可能性はありませんか。

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