■東急百貨店東横店にピリオド
次のカットは渋谷駅前を発車して「宮益坂」の勾配に差し掛かる6系統新橋行きの都電だ。背景には営団地下鉄(現東京メトロ)銀座線の高架橋と東急百貨店東横店東館が写っている。1957年にループ線構造の渋谷駅前ターミナルが整備される以前の青山線は、画面手前の宮益坂通りに複線で軌道が敷設されており、右先に位置する国鉄(現JR)山手線の下をくぐって、忠犬ハチ公の銅像辺りで折り返していた。
渋谷駅前を発車して宮益坂を進むと、約150m走った辺りから最急54パーミルの上り勾配が待ち受けていた。宮益坂は古来から付近が宮益町と命名されていたことに由来している。往時の宮益坂は大山詣での旅人で賑わい、富士山を眺望できたことから「富士見坂」とも呼ばれていた。1966年以降、渋谷一・二丁目に町名を改称されたが、地元の人々は今も「宮益」の通称を大切に使い続けている。
また、宮益坂から見た渋谷駅の近景の別カットも見ていただきたい。2020年1月、東京メトロ・銀座線渋谷駅が高架線の東側に移転し、東京メトロ・副都心線、半蔵門線、東急・東横線、田園都市線とのアクセスが容易になった。旧景に写っている東急百貨店東横店東館はすでに解体され、近景の右奥に所在する東横店西館や南館も3月いっぱいで営業を終える。1934年以来長年にわたって親しまれた歴史にピリオドを打つことになり、跡地には新たに商業施設をともなった高層ビルが計画されている。
余談だが、渋谷駅前に敷設された青山線のループ線は、戦前に廃止された東京駅前ループ線に次ぐものだった。都電の営業線では唯一無二のループ線であり、二線三面の乗降所を持つ渋谷駅前停留所は都電最大のターミナルとなった。
都市面積に余裕のある(計画性がある)欧米諸都市では、路面電車のターミナルにループ線を敷設するのが定番だった。参考までに掲載した海外の別カットは、ループ線構造のサンフランシスコ・トランスベイターミナルで撮影した往年のPCC車だ。常時片側運転台で運転され、各終点に敷設されたループ線やデルタ線を使って運行されていた(後部にはバック運転用の簡易運台を設置)。