『スマホ依存から脳を守る』
朝日新書より発売中

 こんにちは。久里浜医療センターでスマホ(に代表されるインターネットコンテンツやゲームなど)依存の患者さんを日々診療している臨床医、中山秀紀です。

「スマホ依存」「ネット依存」「ゲーム障害」。これらは最近よく聞かれる言葉です。2018年には世界保健機関(WHO)がゲームの依存症(ゲーム障害)を疾病として取り上げました。わが子の、そして自分自身のスマホ依存を心配する人は近年、一段と増えているのではないでしょうか。

 その一方、eスポーツの大会などが世界で華やかに行われ、学校の部活にもゲームを取り入れているところがあります。スマホが、違法薬物やアルコールのような依存症(嗜癖)を引き起こすものだと認めない人もいるでしょうし、スマホ依存など大したことではないと考える人や、ほんのごく一部の特別な人の問題だと思う人もいるでしょう。しかし、自分の大切な人(子どもなど)に「いくらでもスマホをやってもいいよ」とは言わないでしょう。このスマホという便利でやっかいなものとどう付き合えばいいものか――そう困惑している人が多いのが現状ではないでしょうか。

「○○くんの家では、ゲームを一日三時間までやっていいんだって。それなのにどうしてうちは、一時間までなの?」

 と子どもにきかれたらどう答えますか。ゲームを禁じている家では、「みんなゲームをしているのに、どうしてうちではだめなの?」ときかれることもあるかもしれません。

 多くの親たちは「それがうちのルールだから」とか「ゲームをやりすぎると成績が下がるから」と答えるかもしれません。子どもたちも一旦は従うかもしれませんが、多分納得はしないでしょう。家庭内のルールは変えれば良いわけですし、小学生ぐらいならゲームをたくさんしていても(勉強をあまりしていなくとも)成績の良い子はいます。子どもたちにしてみれば、しかるべき理由もなく「楽しい」ゲームを制限されるのはナンセンスなことと思えるでしょう。

 この問いにきちんと答えるためには、まず「依存症」独特の“ルール”をきちんと知る必要があります。このルールは私たちの常識がある部分通じません。スポーツやトランプでもそうですが、ルールを知らなければたいてい一方的に負けてしまいます。ルールを知らず「何となく」では、依存物(依存しやすい物質や行為)の制限を納得させることは難しいのです。子どもの要求に従って、ずるずると「制限」を解除してしまうかもしれませんし、子どもも親に隠れてゲームをするようになるかもしれません。そしていつの間にか依存物に取り込まれて、「スマホ依存」になってしまうかもしれません。さらに将来、子どもたちはガードなしに依存物(依存しやすいとされる物質や行為、ゲームやアルコール、ギャンブル、違法薬物など)を受け入れ、より深刻な依存症に陥ってしまうかもしれません。

次のページ