没後23年、活字に映像に藤沢周平ブームは衰えを知らないようである。「普通が一番」の清貧志向に通じる人生観も人気の一面と思えるが、昨年末刊行された本書は従来の藤沢周平関連本とは一線を画す趣がある。

 タイトルで明らかだが、藤沢周平がエッセイ、インタビューで心に残ったと語っている本をあげ、作家にどう影響を与え、創作に反映されたかを探っている。出色なのがフランスの作家ウジェーヌ・ダビの『北ホテル』の項。パリの河岸の木賃宿を舞台に登場する人々の人生模様をスケッチ風に描いた小説だが、藤沢周平はその“場の設定”の重要さを、「本所しぐれ町物語」「橋ものがたり」、そして海坂藩ものに展開したと推理する。たっぷりのあらすじと、フランス文学研究者ならではの著者の目が生かされて説得力がある。(鈴木聞太)

週刊朝日  2020年3月6日号