週刊朝日 2022年7月8日号より
週刊朝日 2022年7月8日号より

「初めて行ったのは、自分がすごくつらいときだった。帰宅拒否症みたいになったとき立ち寄ったら温かく迎えてくれた。気づいたら、自分に欠かせない場所になっていました」

 40歳を前にYさんは転職したが、転職先に慣れずうつ状態になり、医師の診断で半年間休職。復帰後も仕事がうまくいかず休みがちになり、リストラされた。再就職もなかなかできず、愛想をつかされ離婚。家庭も仕事も失い、途方に暮れていた時期に立ち寄ったのがこのバーだったのだ。

■人生のやり直し 仲間の後押しで

「初めは常連さんたちの会話に時折混ざる程度でしたが、話すうちに気楽になって、自分の抱えている問題を全部ぶちまけていた。知らない人たちだから話しやすかったこともあるけど、何よりそこにいるみんなが真剣に僕の話を聞いてくれたのがうれしかった。帰り際にマスターが『そんなに不幸まみれじゃダメだ』と言って、厄落としだからと全員でテキーラを一気飲みした。『これで大丈夫。また来てくださいね』と言われて通ったのが始まりでした」

 以来、バーが主催する花見会やバーベキュー大会に参加したり、常連のボクサーが出場する試合を観戦したりして行動範囲が広がった。ホストや外国人、風俗嬢や元ヤクザなど、会ったことのなかった友人もできた。失業保険が切れる前、飲み仲間に紹介されて面接に出かけた会社に採用された。バーで知りあったサラリーマンの会社から大口の契約をもらった。

 離婚直後は風呂なし、トイレ共同の4畳半一間のアパート住まいだったが、清潔なワンルームマンションに引っ越せた。バーで意気投合した女性たち数人と付き合った。

 Yさんは「今では、昔うつで会社を休んだことがあると言っても信じてもらえないくらい元気になりました。店でたくさんの友人と出会えたから、人生をやり直すことができたと思ってます」。

 同じ趣味を楽しめる仲間を広げた辻下さん、人生のやり直しにあたって多くの味方を得られたYさん。2人のように、自分が自分らしくいられる“居場所”には様々な効能がある。職場で得られない人脈も築ける。(本誌・鈴木裕也)

週刊朝日  2022年7月8日号より抜粋

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