
「サルサクラブでレッスンしてもらったのですが、最初は音楽に合わせて動くことすらできませんでした。レッスンを受ければ自由にクラブ内で踊れたのですが、教わったことを実践しても全くダメ。悔しくてまたレッスン。出張先でもサルサクラブを探し、レッスンも週に3~4回。まるでレッスンオタクでしたが、それでも踊るたびに恥ばかりかいてボロボロになって帰る日々でしたね。そんな状態が3年ほど続きました」
サルサは一緒に踊る相手を選び、一曲踊ったら別の相手に変える暗黙のルールがある。誘った女性をうまくリードすれば、年齢や地位に関係なく仲良くなれるのが魅力だと辻下さんは言う。
「でも下手だと見向きもされない。たまにうまく踊れたときに、相手の女性から『もう一曲いい?』とか『一緒に来てる友達とも踊ってあげて』とか言われるのが、たまらなくうれしい。もっと上手になりたいと、ますます練習に励むわけです」
SNSのハシリともいえるmixiを通じて、辻下さんは仲間と踊り、互いの誕生日に集まってサルサの話題で盛り上がる友人を増やしていく。今では仲間の数は約1千人。香港やハワイへ仲間たちとサルサを踊りに出かけたりもした。
「みんな踊れるようになるまで苦労している。だからお互いにわかり合えるし、絆も築きやすい。仲間同士で結婚した人もいるし、サルサで知り合った人が仕事に結びついたこともある。サルサのおかげで、70歳を超えた今でも元気で仲間もたくさんいて、毎日楽しく過ごしています」
辻下さんは、自らの“居場所”がサルサであると会社にも家族にも公言し、認められている。しかし、次に紹介する宮藤官九郎似のYさん(56)は、第3の居場所を勤め先にも家族にも秘密にしている。
「会社の自分とも家庭での自分とも違う自分でいられる場所なので、ここで過ごしていることを知られたくないんです」
Yさんが15年近く通い続けるのは、新宿・歌舞伎町の外れにあるバー。早いときは午後5時過ぎから、どんなに仕事が忙しいときでも、終電がある限りはフラリと立ち寄る。行けば必ず顔なじみの誰かがいて、たわいない会話を楽しんでから帰るのが習慣だ。