■都電には暖房が無かった
往時の都電には、基本、暖房装置がなかった。ちょうど今ごろとなる冬の朝、ラッシュ時こそ人いきれで寒さを感じないが、早朝や深夜は足元から底冷えがした。運転士や車掌は厚手のオーバーを着込んでおり、前面窓の隙間には新聞紙を挟んで隙間風を防いでいた。むろん車両にトイレはなく、停留所の近隣にもないところが多かった。今思うと、厳寒のトイレ対策は苦労をしたはずだ。
ちなみに1系統の5500型だけは、唯一例外的に暖房完備だった。この車が来ると、用もないのに上野や品川の終点まで「乗り鉄」を楽しんだ思い出がある。
運転区間が渋谷駅前~新佃島に変更された9系統が新富町界隈から去ったのが、1967年12月10日のこと。残された36系統は、幼少の頃から親しんだ電車道をしばらく走り続けた。新富町停留所で、最後に都電を見送ったのは1971年3月17日だった。
■撮影:1963年9月24日
◯諸河 久(もろかわ・ひさし)
1947年生まれ。東京都出身。写真家。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。著書に「都電の消えた街」(大正出版)、「モノクロームの私鉄原風景」(交通新聞社)など多数がある。2019年11月に「モノクロームの軽便鉄道」をイカロス出版から上梓した。
銀座、皇居、赤坂見附…いまとはまるで違う56年前「都電通学」の東京風景
路面電車がみつめた50年前のTOKYO
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2019/11/30/ 07:00
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