デモ参加者の大半が掲げているプラカードの言葉は「政権に向き合い共産党への抵抗の継続を」。そして「ANTI CHINAZI」(撮影/今井一)
デモ参加者の大半が掲げているプラカードの言葉は「政権に向き合い共産党への抵抗の継続を」。そして「ANTI CHINAZI」(撮影/今井一)
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 香港で今年6月から続く反政府デモだが、ついに「実弾」による負傷者が出た。響き渡る怒号にかき消される若者たちの声――。「AERA」2019年10月14日号では、ジャーナリスト・今井一が香港を取材。混乱が続く現地を駆ける。

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 実弾発砲で世界を震撼させた2日前、9月29日の午後。

 中国建国70周年を祝う国慶節を目前に控え、灣仔(ワンチャイ)周辺に集結していた全身黒装束の「勇武派」と呼ばれる若者と200人ほどの武装警官が大通り上で衝突し、催涙弾と火炎瓶が飛び交った。警察による「若者狩り」が始まった。

夜の灣仔(ワンチャイ)。黒装束の若者狩りに向かう直前の武装警官隊(撮影/今井一)
夜の灣仔(ワンチャイ)。黒装束の若者狩りに向かう直前の武装警官隊(撮影/今井一)
国連旗を先頭に万国旗を掲げてデモ行進する若者たち。中国当局に対する香港市民の抵抗に対する国際的な支援がほしいという思いだ(撮影/今井一)
国連旗を先頭に万国旗を掲げてデモ行進する若者たち。中国当局に対する香港市民の抵抗に対する国際的な支援がほしいという思いだ(撮影/今井一)

 警官はみなフルフェイスのガスマスクをしているが、勇武派の若者もほぼ全員が同様のものを装着。その中には台湾のキリスト教会や若者らから香港市民に送られた数千のマスクも混じっている。そして、そうした現場に身を置く私たち報道関係者もまた7月以降、ガスマスクとヘルメットの装備が欠かせなくなった。

 数時間にわたって双方の押し引きを取材し、いったん現場を離れようと車道から歩道に上がったその時、すぐそばで「黒警死全家(ハッゲンセイツィンガ)!」(悪辣な警官は一家そろって死ね)という女性の叫び声がした。目をやると声の主は黒装束ではなくカジュアルなプリントワンピースを着た小柄な女性で、再度「黒警死全家!」と叫びながら足早にその場を離れようとしていた。

反政府派にとっての「悪人」を、顔写真と本人に関わる一文を組み合わせトランプ仕立てにしたもの(撮影/今井一)
反政府派にとっての「悪人」を、顔写真と本人に関わる一文を組み合わせトランプ仕立てにしたもの(撮影/今井一)
(撮影/今井一)
(撮影/今井一)

 外見と過激な叫びのギャップにやや驚きながら、私は彼女に話を聞かせてと頼み込み、通り沿いのカフェレストランに入った。警官隊が猛然と駆け抜けていく姿を窓越しに眺めつつ、アンバーと名乗る22歳の彼女はこんな話を聞かせてくれた。

 初めて街頭に出たのは6月9日の100万人デモのとき。それまでは、不利益を被るので政治的なことにはかかわりを持たないようにしようと考えていた。なので5年前の「雨傘運動」にもまったく参加しなかったけど「逃亡犯条例の改変」はさすがに黙っていられなかった。北京の習近平政権やその傀儡(かいらい)の林鄭月娥(りんていげつが・香港特別行政区長官)を批判したら、勝手な罪状を押し付けられ逮捕されるようになる。

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