──この時期は親の気持ちも不安になりがちです。おおたさんはそれを「親の心に魔物が現れる」という言い方をしています。

 親の中にフツフツとわいてきてしまういらだちや不安。それは親の性で、誰の心にもあるものです。中学受験に限らず、たとえば一緒に釣りに行って子どもが大きな魚をぎりぎりのところで逃してしまったら、つい「おまえ、なにやってんだよ」と言っちゃうでしょう。それは子どもが喜ぶ顔が見たかったのにできなかった、その残念な気持ちを子どもにぶつけてしまうからなんです。そういう気持ちがわき上がるということは、それだけ子どもを愛している、幸せになってほしいと願っているということ。子どもへの気持ちが豊かであることの裏返しだと思うので、そういう気持ちがわいてくること自体は決して悪いことじゃないと思います。

■親自身の古傷が反応

 親が内なる「魔物」をどう手なずけるかですが、「魔物」の正体は、親自身が抱えている古傷ということがあります。自分も同じようなつらい経験をしていたり、自分の弱さと同じ弱さを子どもが持っていて、痛さがわかるからこそ過敏に反応してしまい、魔物が暴れだす。

 大切なのは、子どもではなく自分にベクトルを向けることです。「なぜ私はわが子の成績を認められないのだろうか」というふうに、この現状を受け入れられない自分の価値観がどこで作られたのかを探ってみること。そうすると、実は自分のコンプレックスや仕事で感じているストレスや不安など、中学受験以外のところにつながっていることが明らかになっていきます。それを否定する必要はありません。魔物の正体に気づいてあげるだけで、魔物が落ち着きます。

 このように中学受験を通して、親も自分の知らなかった自分と向き合う機会にしてほしいですね。自分を認めるのが大切。それができたら子どもも認めてあげられる。親の「めざめ」につながる。器が大きい小さいという問題ではなく、どんな親も自分自身の未熟さ、弱さ、過去のつらい経験を認めることで、わが子を認めてあげられるようになるんです。

(構成/フリーランス記者・宮本さおり)

AERA 2022年12月19日号より抜粋

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