1986年生まれの著者による第2歌集。一冊を通して関西弁で歌われる。そのリズムと響きが心地よい。
《電話する君の肩へと腰掛けるどっこらしょとかゆわへんように》
冒頭の連作「春になると妖精は」では、自身を「わし」と呼ぶ妖精が主体だ。恋に踏み出そうとする「君」と、それを見守る妖精。その二人の関係性の微妙な変化を、44首によって丁寧に捉える。
《死ぬまでをこの世におるとゆうながい生前葬に花はあふれて》
別の連作「呼吸する舟」では介護の仕事を歌い、「菩薩戦争」では菩薩の世界での戦争を描く。生と死、地上と冥界、現実と空想といった世界のあわいを作者は自在に行き来する。
《世界樹のこれから描こうとするもんとかかれるもんのあわいに繁る》
(後藤明日香)
※週刊朝日 2019年7月12日号