岩波書店の「図書」に連載されたコラムに書き下ろしを加えた読書ガイド。著者が三度以上読んだことのある本だけを対象にしている。いやしくも二度読んだ本にはそれだけの価値があるということで、二度読んだ本は必ず三度読むことになるとの著者の指摘は、読書家には大いにうなずけるのではないか。
原則として物故者の作品に限定したという方針もあって、本書で取り上げる作品の多くは古典。『それから』『ガリヴァー旅行記』『カラマーゾフの兄弟』など懐かしいタイトルが並ぶ。これから読書の世界に入る人への指南となるだけでなく、若い頃から読書に親しんできた人が自らの読書歴を振り返る恰好のきっかけにもなるはず。
古典作品に見られる普遍性を抽出し、現代社会への批評につなげる手腕などは小説家ならでは。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2019年7月5日号