近年の広告収入の激減により経営難にあえぐアメリカのメディアは、過激な発言や突拍子もない行動を取るトランプ大統領のおかげで「トランプ特需(Trump bump)」の恩恵を受けている。トランプ氏によるメディア叩きのやり玉に挙げられているニューヨーク・タイムズ紙は2016年の大統領選から半年の間で電子版の有料購読者数を50万人も増やし、ウォール・ストリート・ジャーナルも20万人ほど増加した。
視聴率の低迷に長年悩み続けてきたテレビ局にしても同じである。トランプ氏に関するニュースで、大統領に批判的なリベラル派メディアと言われるCNNも、保守派のFOXニュースも、大統領就任の年の2017年には前年と比べて視聴率を1.5倍以上も増やした。メディアにとってはまさに「黄金のがちょう」だとショート教授は言う。
しかし、利益を上げるためにトランプ氏の些末な言動を過度に取り上げたり、トランプ氏が「フェイクニュース(嘘の情報)」だと言って自分に都合の悪い情報をはねのける姿勢を感情的に叩いたりすることを続けていると、ニュースの失墜は止まらない。報道機関は利益優先の姿勢から、情報を正しく伝えるという本来のニュースの役割に立ち返るべきだとショート教授は指摘する。前述のマイケルさんも世の中で本当に何が起こっているのか知るために「もっときちんとニュースを読まなければ」と感じているが、今のメディアの報道姿勢のままではダメだと言う。
そして今のアメリカで「トランプ疲れ」を起こしているもう一つの原因は、米メディアの分断である。近年アメリカでは共和党を支持する人々と民主党を支持する人々との間の亀裂に年々拍車がかかり、メディアもその分裂の影響から逃れられない状況になっている。そして現在では政治的意見に偏ったFOXニュースなどの保守系メディアの影響力が増大し、「主流メディア(main stream media)」と呼ばれるこれまでの既存のメディアとの対立が激化している。