当事者自身が合理的配慮を周囲に求めていく時代に不可欠なのが「セルフアドボカシー」の考え方だと鈴木さんは説明する。「自己権利擁護」と訳されるが、障害や困難のある当事者が、自分の権利や意思を自ら主張することを意味する。
一方、企業側が当事者たちがセルフアドボカシーしやすい環境や仕組みを作っていくのも大事なことだ、と鈴木さん。
「合理的配慮は、一度やったら終わり、ではありません。上司や仕事内容など状況が変われば必要な配慮はまた変わってきます。定期的な面談などを行って本人に配慮事項を再確認する必要があります」
■マニュアル対応は限界
では、発達障害を持ちながら働く人たちは、職場でどんな困難を抱えていることが多いのか。どんなサポートがあれば働きやすくなるのか。
3回の転職を経て大手企業に勤務していた33歳のときにADHDと診断され、現在は明星大学発達支援研究センターで発達障害への支援策を研究する岩本友規さん(43)への取材を元に例を下記に示した。
ただ、岩本さんは「発達障害のある人への支援や配慮は、マニュアル的に対応するのは限界がある」と指摘する。発達障害の特性といってもさまざまあり、程度もグラデーションがあるからだ。例えば、職場で決まった席に座れないとパニックを起こす人もいれば、イライラするが近くの席に座ることができる人、もしくはまったく気にしない人もいる。岩本さんは言う。
「生まれ持った脳機能の障害に加え、経験の蓄積が合わさって行動に表れるため、働きづらさや特性は人それぞれです。ただ、発達障害の特性でコミュニケーションや、自分に注意を向けるのが苦手で、自ら支援を申し出ることが難しい場合も少なくありません。一方、得意不得意に偏りはありますが、得意な分野では革新的なパフォーマンスをあげることもあります。そして職場内に従業員の特性に応じて主体的に配慮できる人を育成することは、イノベーティブな人材を育てることとイコールだと感じています」