――実際、交差点でけんかをし始めた若者たちが警察に捕まるシーンはリアルだ。

ラム:そのシーンについては、現実でも似たようなことが起きていました。街中にいる人たちの中で誰が警察かわからないんです。そういった状況で香港ではやっていた言葉に、「若さは罪」というものがありました。若くて黒い洋服を着ていれば、いつ逮捕されてもおかしくないという意味でした。映画でもそれを表しています。

――撮影にかかった期間は約15日。ゼロから完成するまで約2年。途中、理大で起こった民主化デモ(12月17日公開の映画「理大囲城」に詳細が)の参加者が多く、心ここにあらずだったので、いったん撮影を中断したこともあった。香港での上映は今もされていない。

ラム:香港で上映の審査が通らなかったり、国家安全維持法が成立したりしたことで、香港で上映は無理だとわかり、海外での上映を目指しました。台湾で正式に上映できるなど、海外からの大きな反響があったことは意外でした。

 僕はすでに英国へ移住して半年が過ぎました。今後も香港人を題材にした映画を作っていきたい。香港での撮影はその時の香港の状況によるのかな。自分の経験も含めて、在外の香港人、外国にいる香港人の映画も作ってみたいです。

レン:僕はこれからも香港に残って映画を撮り続けます。もちろんどうしても海外へ出なくてはいけないのであれば、その時は海外での撮影も考えます。言論統制が厳しいイラクでも、イラク人の監督はイラクで撮影をしていますよね。そう思うと、香港の問題を誇張してもあまり意味がないのかなと。この映画を作ったことで、こんなに難しいテーマで困難が多い映画を撮影できたんだから、今後も何でもできそうな気がしています。

ラム:僕も本作を撮ったことで、とても自分を勇気づけることができた。自分が今後、映画撮影を通して何を伝えたいのか、自分がどうなりたいのか、そういったことを教えてくれた映画だったと思うんです。僕たちは諦めません。

(聞き手/ライター・坂口さゆり)

週刊朝日  2022年12月23日号

[AERA最新号はこちら]