「人の魅力といっても、結局、内面なんて写真には写らないんですよ(笑)。表面を丁寧に写していくことが大切で、これだけでも結構大変なことです。内面がどうこうというのは、見る人が判断すればいいことで、カメラマンはそれにうなずいていればいいんです(笑)」
一方、2階に展示されたスナップの数々は、まったく違う景色をみせる。立木氏の出世作となった『舌出し天使』をはじめ、70年代後半のアメリカの深奥に迫った『MY AMERICA』、カルフォフニア州のビック・サーで出会った女性たちの息遣いをとらえた『ビッグ・サーの神話』など、まさに時代の空気を写し出してきた作品が並べられている。ポートレートのみならず、立木氏がスナップの名手であることも再確認させられる。
「スナップには筆舌に尽くし難い面白さがある。頭で考えて演出する写真は、努力すればうまくなれる。でも、スナップは時代に潜りこんで、出来事に寄り添い、その空気をどう感じることができるかが重要。それが感じられなくなったら終わりなんです。今後は社会の悲惨さだけでなく、ユーモアを感じられる写真を撮っていきたいですね」
そう語る立木氏の目は、81歳になった今でも情熱に満ちていた。
たつき・よしひろ 1937年、徳島県の写真館に生まれる。東京写真短期大学(現・東京工芸大学)卒。65年に日本写真批評家協会新人賞。69年、フリーランスとなり、女性写真の分野で多くの作品を発表する一方、広告、雑誌など幅広い分野で活躍している。2010年に日本写真協会賞作家賞、14年に文化庁長官表彰などを受賞。
「時代-立木義浩 写真展 1959-2019-」は5月23日~6月9日、東京・上野の森美術館で開催。
写真=立木義浩
取材・文=作田裕史(アサヒカメラ)