大原麗子
大原麗子
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 美術館に一歩足を踏み入れると、その写真の女性の美しさに目が吸い寄せられた。衣装だろうか、イブニングドレスのような背中の大きく空いた白いドレスをまとって、こちらを振り返る表情は圧倒的なオーラを放つ。それもそのはず、その写真は、今なおファンを魅了してやまない山口百恵の未公開カットだったのだ。

【美しすぎる夏目雅子の写真】

 展示されているのは、上野の森美術館で開催されている「時代-立木義浩 写真展 1959-2019-」。写真家の立木義浩氏による過去最大級の写真展だ。他にも、デスクで原稿用紙に向かう真剣な表情を捉えた写真や、屋外で眼鏡姿で赤ちゃんを抱いてほほ笑む姿など、未公開カットを含む8点が展示されている。

「百恵さんが書いてベストセラーとなった自叙伝『蒼い時』は、実は立木事務所で執筆されました。その時の姿を撮影したカットなど、貴重な作品がいくつもあります」(事務局)
 
 山口百恵の作品は記事では掲載できないので、ぜひ会場に足を運んで鑑賞してほしい。

 同写真展の作品数は、720点にのぼる。60年にもわたり、立木氏が撮り続けてきた著名人のポートレート、国内外のスナップ写真が所せましと展示されている。まさに昭和、平成、そして令和へと続く「時代」の記録だが、立木氏はこれを“集大成”とは捉えていない。

夏目雅子
夏目雅子

「回顧録のような写真展にはしたくなかった。過去に撮った作品であっても、写真は『現在進行形』のものばかりです。若い人たちが使うインスタグラムで正方形の写真が使われています。でも、僕らも6×6(ロクロク)で撮っていた時代があり、1:1の構図は体に染み込んでいる。現代にも通じるスクエアの写真も多く展示しています」

 展示室の1階には、俳優、タレント、アイドル、スポーツ選手、映画監督、作家、評論家など、各界を代表する100人以上の著名人の「顔」が並ぶ。山口百恵以外にも、傘をさしながら口元に手を当ててほほ笑む夏目雅子、サングラスの奥から鋭いまなざしを向ける松田優作、まばゆい光に包まれて半裸でベッドに横たわる大原麗子、20代の“プライベート”を収めた加賀まりこのヌードなど、立木氏でなければ撮れなかったポートレート群は圧巻だ。中には、雑踏にたたずむエリザベス女王の写真もあり、一枚一枚の作品が歴史的価値を感じさせる。被写体の魅力を引き出す方法を聞くと、立木氏はこう笑った。

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人の内面を撮るということ