子育て中の親の悩みが幸せに変わる「29の言葉」を紹介した新刊『子どもが幸せになることば』が、発売直後に連続重版が決まり、大きな注目を集めています。著者であり、4人の子を持つ田中茂樹氏は、20年、5000回以上の面接を通して子育ての悩みに寄り添い続けた医師・臨床心理士。
本記事では、「幼い頃から英語を学ばせるべきか?」という答えのない問いへの1つの考え方を、著者自身の子育てのエピソードとともにします。(構成:編集部/今野良介)
●イギリス人の大学生をベビーシッターとしてホームステイさせた
私は、認知心理学の研究をするために、大学院に進みました。そこでは、脳の働きについて、記憶のしくみや言葉を話す能力、他人の心を知るしくみなどについて研究をしていました。
妻は産婦人科の医師です。2人とも医学や脳についての知識がありました。しかし、自分たちの子どもをどう育てるかについては、大いに期待と不安がありました。専門的な知識があってもなくても、育児で不安を感じるのは、どの親でも同じだと思います。
長男が生まれて、日に日に育っていく姿を見ているうちに、いままで論文や教科書から学んだ知識だったものが、生の現実として体験されるうちに、考え方も変わっていきました。私は、「子どもを育てたら、自分の心理学の知識も増えて研究にも役立つ」と思っていた部分があったのです。そのように話してくれた先輩も、たくさんいました。
しかし、私にとっては、子育ての困難さとやりがいは、そのようなものではなかったのです。心理学や医学の知識は、子どもが幸せに育つための手段や方法の1つにすぎない、と感じるようになりました。知識や研究よりも、育児そのもののほうがずっと大事で、楽しかったのです。
「そうしなければ」ではなく「そうしたい。そのほうが楽しい」と強く思いました。その考え方は、自分の場合、正しかったと思っています。
とはいえ、私も、はじめのうちは、「どうやったら子どもを賢い子にできるか」ということを考えていました。具体的には、学校の成績が良くて、語学ができて、スポーツも得意でという、わかりやすい「優等生」のイメージです。他の人から見てもわかりやすい基準で「すばらしい子」に育てるにはどうしたらいいかと、考えていたのです。
たとえば、小さいころから日常的に英語に触れることによってバイリンガルに育てたいと思い、イギリス人の大学生をベビーシッターとしてホームステイさせたりもしました。長男が生後6ヵ月~2歳半ぐらいのことです。
しかし、2歳になる前に、大人が英語で話していると「ちゃんとしゃべって!」とはっきりと文句を言うようになりました。