「夜、鳥たちが啼く」傷ついた者たちが前を向いて小さな一歩を踏み出す。東京・新宿ピカデリーほか全国公開中 (c)2022クロックワークス
「夜、鳥たちが啼く」傷ついた者たちが前を向いて小さな一歩を踏み出す。東京・新宿ピカデリーほか全国公開中 (c)2022クロックワークス

■互いを縛らない新しい価値観

松本:何者でもないっていう感覚……。何者でもないという目で見られる苦痛というか、なんとも言えない苦い感覚? だから二人が会えて良かった。ある意味、運命ですよね。でも、運命なのに二人は結婚しない。そこが新しい価値観。互いを縛らなくていいし、社会の目とか気にしない。すごくナチュラルなんです。

──言葉の端々に本作への思いがにじんだ二人。出演して得たこととは?

山田:いろいろありますが、「愛に形づけることはいらないんだろうな、きっと」って思えたこと。愛を決めつけなくていいんだ、バカになればいいんだって。そういう距離感であることが自分にとっても相手にとっても大切だと思えました。

松本:それは山田くんが思っていたのと違うところに幸せがあると思ったから? 私もいつか結婚したいとは思うけど、今すぐにとは全然思わない。どれだけいい仕事をできるか、もっともっとステップアップしたり、いい表現ができたり。それを越えた先に自分の幸せがあると思っていました。でも、映画の中で慎一と裕子が本当に、ただ無邪気に生きていた。いろんなことを考えなくちゃいけない、勉強しなくちゃいけないというところから外れて、ただ生きている、遊んでいる、楽しんでいる。そこに自分もいる。自然と笑顔になったというか、自然とここに行きたくなるというか。そう思わせてくれた、ものすごい生命力の塊みたいな二人に幸せというものを感じてしまった。自分が行こうとしていたのではないところ、見てはいけないと思っていたところに幸せがあるのかもと。そう感じたことは大発見で、私にとってはすさまじくショッキングな出来事でした。

山田:僕も自分にとって大切なのは全部が仕事で、余計なものは排除をしてきました。みんなが飲みに行こうって言っても行きません、すみませんって。でも、この3人を見ていたら「これだよね、幸せって」という気づきがありました。見てくださる方にも、この映画のテーマである「愛の形」みたいなものが伝わればいいなと思っています。

(聞き手/ライター・坂口さゆり)

週刊朝日  2022年12月23日号