売れない小説家と、行き場を失っていたシングルマザーの新たな愛の形を描いた映画「夜、鳥たちが啼く」が公開中だ。主演の山田裕貴と松本まりかは本作で5度目の共演。「こんな映画に出たかった」と口をそろえる二人に話を聞いた。
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佐藤泰志の短編小説を原作に、心に葛藤を抱く男女が行き着く愛の形を描いた本作。若くして小説家デビューを果たしたものの、今や鳴かず飛ばずの慎一を山田が演じる。そんな彼のもとに息子アキラとともに引っ越してくる裕子を演じるのが松本だ。慎一は離婚して行き場を失った裕子に、恋人と暮らしていた一軒家を提供。自身は離れで寝起きし、いびつな「半同棲」生活が始まった……。
山田:脚本を読んでまず、外見ではない部分で見せることがとても大事だと思いました。慎一は外見も内面も魅力がない。でも、人間なんだと感じました。この作品には人間の感情がいっぱいちりばめられている。僕は出演するすべての作品において大事にしていることがあるんです。それは、お芝居にしないということ。僕の声も表情もすべてが嘘(うそ)でないものであってほしい。ここではそれを体現できた気がしました。
──徐々に距離を縮めていく慎一と裕子。だが、心に傷を負う男女にとって愛が結婚へ結びつくわけではない。
山田:恋愛や対人関係は当事者にしかわからないと思うんです。誰に何を言われようと自分たちがつながっていると思えばそれは愛になりうる。「周りなんてどうでもよくね?」という、そこに愛の神髄がある気がします。この映画ではそこを嘘なく生きられた。自分の中にある感情を掘り出しながら、本当にその時間を生きただけという感覚でできたことで、こういうことがやりたかったんだと思ったんです。
松本:私も20年くらい「こういう作品に出たかった」って思っていました。私は映画とは程遠いところにいたので、こういう映画に呼ばれる俳優になりたいと思ってずっとやっていたけれど、そんなことを言ったら鼻で笑われるから秘めていたんです。でも、このお話が来て、思っていたことはかなうんだなって。今は目の前のこと、ここで楽しんで幸せを感じる生き方をしたい。話がずれてきちゃったけど(笑)。