山田:出演したかった理由で今思い出したんですが、こういう作品だと、見る人をキュンとさせなくてはとか、かっこよくいなければとか一切考えなくていいからいい。僕はある時期から恋愛モノは一切演ってこなかったんです。でも、こういう作品はまじめに純粋に生きていることを見せられるのがいい。
松本:ラブシーンもキュンではなかったし、いやらしいラブでもない。もっと崇高。慎一とはあいまいな関係での交わるシーンだったけど、そこにはとても崇高で美しいものがありました。ちょっとアンタッチャブルなシーンだけど、人間の本質みたいで。二人が足りないピースを求め合うようで素晴らしいシーンになったと思っています。
──デビュー作から再ブレークするまで18年かかったという松本さんだが、慎一もまた1作目の小説だけが売れたという設定。山田さんは慎一に自身を重ねたところはあったのだろうか。
山田:めちゃくちゃありました。僕は戦隊モノでデビューしましたが、戦隊モノを世界中の人々が見ているかといえばそうではない。「良いスタートじゃない?」と言ってもらっても、僕は一切そう思っていなかった。「そんなもので喜ぶな! 俺」みたいな(笑)。食べていけるかということがまず不安でした。「作品が決まりました」と言われれば、ほのかに喜びはあるんですが、「じゃあどうしよう、どうしていこう」と冷静な目しかなかったですね。
松本:わかります。
山田:バラエティーに本当に珍しく出させてもらったときの、「この人誰だろう?」という顔で見られるあの目とか、スタッフさんたちの対応とか。その一瞬の、出会う人出会う人の目に苦しむんです。先輩には、映画の中の慎一と同じように飲みながら「お前もっとこうしないとダメだよ。やっていけないよ」みたいなことを言われて、「は?」みたいな(笑)。「本当にそうですよね」と言いながらも、家に帰りながら罵倒する。デビューしてから7、8年は本当に性格の悪い人でした。今はそんなことはまったく思いませんが。