BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2019」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは深緑野分著『ベルリンは晴れているか』です。
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本書は第160回直木賞候補をはじめ、第9回Twitter文学賞で国内編第1位、「このミステリーがすごい!2019年版」国内部門2位など多くの場で評価された注目作です。
舞台は第二次世界大戦直後の1945年7月、ナチス・ドイツが降伏し米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある緊迫した状況のもと、敗戦により荒廃した街で歴史ミステリーが展開されます。ちなみに同時期、米英中の3カ国が日本の戦争終結条件を示したポツダム宣言を発表した場所も、このベルリン郊外のポツダムです。
主人公は、米軍の兵員食堂でアメリカ人から「ブス」などと罵声を浴びながらも、たくましく働くドイツ人の女の子アウグステ・ニッケル、17歳。戦時中に家族を亡くし、天涯孤独の身でもあります。そんな彼女はある日のこと、ソ連のNKVD(内務人民委員部)から呼び出しを受けます。アウグステにとってソ連は、過去の因縁から複雑な思いを抱えていて......。
そこで待ち受けていたのは、かつて身寄りのない彼女を世話してくれた恩人クリストフ・ローレンツの死でした。米国製の歯磨き粉に毒を仕込まれて死んでいたというのです。彼女はNKVDから疑いの目を向けられつつ、行方不明になったクリストフの甥には重要参考人として捜査の手が及びます。
アウグステはNKVDの人手不足を理由に、クリストフの甥の捜索を依頼されます。はからずも、現地の地理に詳しい泥棒で元映画俳優のカフカを連れ立って旅立つことになります。この「本編」ではたった2日間の道中での出来事が濃密に描写されます。
物語の途中で挿入される「幕間」では、なぜ彼女が両親を亡くしたのか、どうして彼女がいつもケストナーの英訳版『エーミールと探偵たち』を大切に持ち歩いているのか、アウグステの過去が徐々に明かされていきます。
同時に戦時中のドイツという国も描かれます。街の様子や戦争の悲惨さがこれでもかと、事細かに描写されており、著者の深緑さんが実際にその場にいたのではないか......そう疑ってしまうほどの生々しいまでのリアルさに驚くことになるでしょう。
本編と幕間から事件の謎が解明される本書。そんなミステリー要素を楽しめることはもちろん、歴史小説としてヒトラーの狂気さ、戦争という悲劇が嫌というほど感じとれる価値ある1冊でもあります。あなたは歴史から目をそらさずに読むことができるでしょうか?
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