ルーベンス『4人の哲学者』
ルーベンス『4人の哲学者』
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 芸術の秋が到来し、これから美術館に出かけてみようと思っている人も多いだろう。最近では、西洋の有名画家の展示会が当然のように日本で開催されるようになった。教科書でしか見たことのない“あの名画”を、実際に目にした人もいるだろう。

【ルーベンスの名画「セネカの死」に隠された意外な意味】

 一方で、名画の前に立った時、こう感じた人も多いのではないか。

「どこが良いのか、よくわからない……」

 実はこれ、当然の感想なのだそう。

 美術史の本としては異例の5万部を超えるベスセラーを記録した『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』の著者である木村泰司さんによると、「名画は見るものではなく、読むもの」だそう。名画を正しく理解するには、絵の中に隠された意味や背景にある歴史や宗教に関する知識が不可欠なのだという。

 かといって、決して敷居の高いものでもない。木村さんは、近刊『人騒がせな名画たち』で誰もが知る名画を取り上げ、そこに隠された意味や作者のエピソードを紹介している。

 ちょっとだけ角度を変えるだけで、西洋美術の鑑賞は何倍も楽しくなる。そこで木村さんに、日本人が陥りやすい間違った西洋美術の見方と、“正しい”は鑑賞の仕方を語ってもらった。

西洋美術史家の木村泰司さん
西洋美術史家の木村泰司さん

* * *
──恥ずかしながら、西洋美術の有名な絵を見ても、感動したことがありません。なんとなく「良い絵だな」とは思うのですが……。

 そもそも西洋絵画は、見る人にメッセージを伝えるために描かれています。古典的な作品だと、宗教的な教義や物語、倫理観や思想などについてですね。だから、その絵が書かれた時代の背景や作者の意図などを理解しない限り、西洋絵画を楽しむことはできないんです。

 映画に例えると、背景知識がないまま絵を鑑賞するのは、字幕のない外国語映画を観ているようなもの。字幕がなくても、「映像が美しい」ぐらいの感想は持てるでしょう。しかしそれは、観ている人の主観による解釈で、その映画作品の意味を理解しているわけではありませんよね。字幕があってはじめて、物語の持つ意味が観客に伝わり、理解も深まるのです。

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日本の美術批評は偏っている