コロナ禍も3年目、ロシアによるウクライナ侵攻やインフレなど、世界的に混乱の続いた一年だった。英語圏の「今年の言葉」も、今年はややざわつきが見えた。AERA2022年12月26日号の記事を紹介する。
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英語圏の「今年の言葉(ワールド・オブ・ザ・イヤー」は日本の「今年の漢字」「流行語大賞」と並ぶ定番企画。一年を振り返る無難な季節ネタだ。ところが今年はややざわつきが見える。
イギリス英語の権威オックスフォード英語辞典が選んだのは「Goblin mode(ゴブリン モード)」。大意は「社会の規範を拒絶し、堂々と自堕落に過ごすこと」。スウェット姿でポテチを脇にスマホをいじり、だらだらしているイメージだ。「SNSなどで流布される完璧なライフスタイルへの抵抗」の表れという発表元の分析は一見、もっともらしい。
■「今年の言葉」も論争に
だが実は、同社は今年初めて一般投票を導入。そこで米ゲーム雑誌が読者を焚(た)き付けて9割超えの組織票を叩き出した結果が「Goblin mode」だった。そのため、発表後に「こんな言葉知らない!」「こんなの誰も使ってない」という批判が出た。権威側が時代の要請で読者投票を企画してバズりを狙うも、スベったのか。いや、ツッコミも想定したPR戦略か。臆測も含めてネット興隆時代のカオスを象徴しているようだ。
アメリカの代表的な辞書メリアム・ウェブスター辞典が選んだ「gaslighting(ガスライティング)」も無傷ではなかった。本来は映画「ガス燈」に由来し、「自分の正気が信じられなくなるほど心理操作される」の意で、「トランプがアメリカをガスライトしている」という表現で広まった言葉。いまでは「洗脳する」くらいの意味で日常的に使われる。だが、この選定自体に<いまは有名人が平気で人種差別を公言する時代だ。“遠回しに洗脳する”なんて悠長な言葉を選んでる場合じゃない>(米ローリング・ストーン誌)という怒りの声があがった。
何でも論争になってしまう時代に「今年の言葉」の大役を見事に果たしたのが、英国コリンズ英語辞典だろう。選ばれたのは「permacrisis(パーマクライシス)」。パーマネント(永続的な)とクライシス(危機)の合体語で、戦争、インフレ、国内政治の混乱、気候変動など終わりの見えない深刻な危機が続くさまを表す。さすがに批判報道は見当たらない。
個人的に今年ウケた言葉は「Guardian-reading, tofu eating wokerati(左派ガーディアン紙を読み、豆腐を食べる意識高い系)」。英保守党右派の大臣が政敵陣をクサして放った言葉で、豆腐は菜食主義者のタンパク源なので、「左巻きベジタリアン野郎」くらいの悪口だ。さて日本の豆腐業界の反応は?