読んでいただくと、半分くらいの章が、飲み屋を舞台にした会話で始まります。しかも、普通の飲み屋じゃなく、ニューハーフ系・女装系のお店です。それらはだいたい20年ほど前の私の実体験、実際にあった会話です。そうした設定にしたのは、私が抱いた疑問を読者の皆さんと共有したかったからです。特に第1章と第7章は「探す」ということを強く意識した書き方をしました。私といっしょに「探す」気分で読んでいただけたら、うれしいです。

 ところで、幼い頃の私は地図好きの男の子でした。母や祖母に連れられて歩いた道筋を家に帰ると地図に書いていました。行動範囲が広がるにつれて手書きの地図は貼り継がれ、とうとう畳二つ分にまでなりました。昭和30年代、1960年頃の話です。

 その男の子は長じて、なぜかネオンきらめく新宿・歌舞伎町の「女」になりました。40代後半で夜の世界から足を洗い、自分が親しんだ新宿の街のことを調べ始めました。そして17年かけて、ようやく「新宿の(なんちゃって)歴史地理」の本をまとめることができました。

 地図好きの男の子から数えると58年、地図がたくさん載った本を出せて、とてもうれしいです。図版をたくさん載せすぎて製作費がかさみ、印税を削られましたが、仕方がありません。その分、本を担いで行商でもしましょう。

 実は、この本には続編があります。今回は女と男の「性なる場」を中心に記しましたが、男と男、あるいは女装者と男性の「性なる場」について記す「男色編」です。「性なる街」新宿の歴史地理的な最大の謎は、長らく女と男の「場」であった二丁目の「新宿遊廓」・「赤線」が、1960年代、きわめて短期間に男と男の「場」である「ゲイタウン」にどのように変貌したのか?です。その見通しは第5章・第7章で述べましたが、まだ詰め切っていません。

 もし、この本が売れれば、「男色編」が日の目を見ることができるかもしれません。
 ということで、朝日選書としてはかなり変な本ですが、物好きな、もとい好奇心旺盛な読者の皆さんには、それなりに楽しんでいただけると思います。どうかよろしくお願いいたします。

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