「我々は奴隷労働に耐えかね白人農園主を殺した。どこまでも走って逃げ、やがて二手に分かれた」。アマゾン先住民・イネ族の言い伝えだ。彼らはペルー領の先住民保護区に暮らし、文明社会と共存しながら固有の生活を営む。

 ある日、川の向こう岸に裸の男女3人が現れる。対峙したイネ族の若きリーダー・ロメウは、自分たちと似た言葉を話す彼らを、かつて別れた仲間(ノモレ)だと直感。手探りの交流を続ける日々が本書で綴られる。文明に触れた先住民が元の暮らしを続けることは難しい。外との接触のため予防接種が必要になり、身体は国家に管理される。ロメウは悩む。何がノモレや我々の幸せなのか。専門家の意見も割れる。

 著者はNHKのディレクター。文明が地球上を覆い尽くす寸前の最前線を記録している。

週刊朝日  2018年9月28日号