著者はフジテレビ「ザ・ノンフィクション」のチーフプロデューサー。張江泰之『人殺しの息子と呼ばれて』は昨年10月に放送されて反響を呼んだインタビュー番組を再構成した本だ。

 加害者の家族はそりゃ大変だろうとは思っていたが、この本はそれどころではなかった。本書の中で「彼」と呼ばれる24歳の男性が体験した「北九州連続監禁殺人事件」は、残虐すぎて報道が規制されるほどの事件だったのだ。

 逮捕されたのは、内縁関係にあった「彼」の両親。殺害された7人中6人は母親の家族(両親・妹夫婦・姪甥)で、父親は被害者を含む9人を監禁、虐待した末、互いに殺し合わせ、遺体の解体と遺棄も妻や家族にやらせた。

 事件が発覚した2002年当時「彼」は9歳。出生届が出ていなかったため戸籍はなく、学校にも行っていなかった。「彼」が語るのは、そんな異常な事態の中にいた頃の記憶と、事件発覚後の人生である。父親の虐待は常軌を逸していた。<導線を巻きつけたクリップを体のどこかに取り付け、電気を流すんですけど、俺は顔と手と足にされた>。「通電」と称するその行為が恐くて、監禁された一家は逃げ出せずにいた。

 保護された後は児童相談所や児童養護施設などから学校に通い、中学卒業後は働きながら定時制高校に通う道を選ぶが、親や身寄りがいないハンディは想像以上だった。<どんだけ頑張っても、結局、またこれかと思って><携帯を持つのも、免許を取るのも、働くのも、家を借りるのも、何するにしてもこれだけ不便なんやって>

 自ら「彼」の後見人となった中学校校長は<本来であれば、保護した時点で“育て直し”をしなきゃいけなかったと思うんですけど、そういうシステムがないんですよね>という。犯罪を犯した少年のためのプログラムはあるが、加害者の家族のためのそれはない。<ある意味、彼らは、犯罪者よりも冷遇されますから>

 ショッキングな本だけど、過酷な少年時代を経験した「彼」の成長した姿がせめてもの救い。

週刊朝日  2018年9月14日号