マザー牧場出身の女優と聞いて、どんな女性が浮かぶだろう。純朴、天真爛漫、飾り気がない? 女優・唐田えりかは初めてヒロイン役を演じた映画でカンヌ行きの切符を手に入れたシンデレラガール。是枝作品が最高賞を受賞するなど、邦画史に残るカンヌに参加したばかりの唐田がAERA dot.のインタビューに応じた。
この記事の写真をすべて見る取材当日、スタッフの後ろからひょこっと姿を現した唐田は屈託ない笑顔を見せ、インタビュー中のくるくる変わる表情にはまだあどけなさが残る。映画で初ヒロインにして初カンヌという女優としてできすぎた一歩を踏み出したが、実は演技に苦手意識が強く、楽しいと思えなかったという。
しかし、今回の作品『寝ても覚めても』が一つの転機となる。濱口竜介監督や東出昌大らキャスト陣とのエピソードや忘れられない恩師との思い出、今回のカンヌでパルムドールを受賞した是枝作品への思いまでを語ってもらった。都会の街並みも、レッドカーペットもとびきり似合う20歳の女の子。唐田えりかの素顔に迫る。
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――デビューのきっかけが、マザー牧場だったとか。
アルバイトをしていたんです。スカウトしていただいたのは高校2年生になる前で、子どもたちが遊ぶ広場の受付をしていました。田舎にいたので、アルバイトするならコンビニかファミレスかマザー牧場の3択。コンビニもファミレスも知り合いばっかりだけど、マザー牧場は近すぎて地元の人はあんまり行かないだろうって(笑)
その日、マスクをしていたんですけど、当時のマネージャーさんに「子どもと一緒に写真を撮ってください。せっかくだからマスクも取ってください」って話しかけられたんです。マネージャーさんはプライベートで来ていたから名刺も持っていなくて、急いで売店で牛のボールペンを買って、パンフレットか何かをちぎった紙に名前とかを書いて渡してくれました。
――その後すぐに事務所に所属することが決まったんですか?
後日、地元のファミレスで私と母とマネージャーさんと3人で話しました。元々モデルになりたいと母に伝えていたので、芸能界には賛成してくれていました。でも、祖母は大反対。実はそれまでも東京に遊びに行ったとき、スカウトしていただいたこともありました。でも、名刺を家に置いていると「全部捨てなさい、芸能界なんて絶対ダメ」って。
――今はどうですか?
一番のファンというか、一番うるさいです(笑)。雑誌や新聞も全部切り抜いて、私のファイルを作ってくれています。千葉県警の110番のポスターをやらせていただいたんですけど、そのポスターがリビングにドンと貼ってあって、めっちゃ恥ずかしい(笑)。恥ずかしいからやめてよ、ってたまに喧嘩になります(笑)。
――でも、自慢したくなっちゃう気持ちも分かります。
初めてのCMが決まったとき、祖父もそのCMのサービスに登録してくれたんですけど、電話相手に私の話をずっとするんです!「孫が出ているから登録するよ」って。相手の方もびっくりしちゃいますよね(笑)。
小学生時代から事務所をリサーチ!
完璧だったはずなのに…
――モデルになりたかったのには理由があったんですか?
姉の影響で小学生のときに『Seventeen』を読んでいて、桐谷美玲さんや榮倉奈々さんがすごく好きでした。同じ人なのにかっこよかったり、可愛かったり全然違う人になっている。そういうのを見て、モデルに憧れるようになりました。
――それで、今の事務所(FLaMme)に?
小学生の頃からどの事務所が良いかずっと調べていました。所属するなら、有名な人がたくさんいて、でも少数で埋もれないところって考えていました(笑)。色んなところに声をかけていただいていたんですけど、「ここじゃないな」って思ったりもしていました。でも、応募するまでの勇気は持てなくて……。スカウトされたとき、実はフラームのことは知らなかったんです。調べてみたら有名な人がたくさんいて、それでいて少数。「ここだ!」って思いました。
ただ、一つ気づいていなかったことも。演技レッスンを受け始めて、「あれ、もしかして女優さんの事務所だった…?」って。リサーチは完璧だったはずなのに、そこだけちょっとぬけていたんです(笑)。なので、モデルをやりたい気持ちとのギャップで苦しい時期もありました。でも、今はこの事務所に入れて良かったなって思っています。