一見現実と同じようで、しかしわずかな「ずれ」のある世界を描く短編集だ。

 生殖のシステムが異なり、男性が女性の身体の中に入って再度の生を受ける世界や、ドローンが発達して社会の重責の大部分を担うようになった世界などが作中に登場する。しかし、その一点の「ずれ」をのぞいた生活は現実と変わりなく、人物どうしの会話はむしろ地に足のついたリアリズムを感じさせる。

「ずれ」は人物間での認識の差にも現れる。例えば近所の家では犬が飼われていた/いなかったといったことについて、認識差が明白になったとき、じわじわと引きずるような恐怖感が喚起される。わずかな違和感を日常の中に溶け込ませる著者の手腕は類型のないもので、短い中にもそのエッセンスを十分に感じられる一冊だ。

週刊朝日  2018年3月30日号