AERA 2023年1月2日-9日合併号より
AERA 2023年1月2日-9日合併号より

 野さんは「次の日銀総裁が政策を動かしやすくするため」と金利上限引き上げの意図を推測する。新総裁が就任早々、金利上限を引き上げれば、新総裁は利上げ志向の強い「タカ派だ」と批判されるのは必至だ。黒田総裁が去り際に、自らの手で異次元緩和の後始末に着手したことにもなる。

 黒田総裁は11月10日に岸田文雄首相と会談している。みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「日銀は11月時点で政策修正の方針を固めていたようです。背後には、円安対応で苦慮する首相官邸の要望と市場機能の低下があったのでしょう」とみている。

■電気料金押し下げも

 為替が実体経済に影響するまで3カ月以上のタイムラグがあるとされる。今回の金利上限引き上げを受けた円高が効果を発揮するのは23年4月以降になる。「23年4月の電気料金改定では3割近い引き上げが予想されますが、為替が円高方向に修正されれば電力会社のコスト上昇圧力が軽減され、電気料金を押し下げる効果が期待できます」(前出の熊野さん)

 日銀は10月に23年度の生鮮食品を除く消費者物価の上昇率を1.6%と予想していた。円安が進めば物価が上がり、政府と共有してきた目標の2%に近づくが、金利上限の引き上げは円高を通じた物価高抑制の材料を提供したことになる。熊野さんは「賃金が上昇しないのにエネルギーや食料など輸入物価だけが上がる状況は望ましくないと、日銀は冷静に考え方を変えたのでしょう」と話し、アベノミクス開始以来の「2%必達」と距離を置いた可能性を読み取っている。

 ところで、長期金利の上限を0.5%にすれば万事うまくいくのか。米系資産運用大手インベスコのクリスティーナ・フーパー氏は「投資家がその経済圏の内外に資金を自由に移動できる場合、政府は金利と為替レートを制御できません」と指摘している。日銀の試練はまだまだ続きそうだ。(経済ジャーナリスト・大場宏明)

AERA 2023年1月2日号-9日合併号

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